「採寸ついでに」クラフトビールイベント

ファブリック・トウキョウのもうひとつの魅力は、月1回の頻度で開催されるイベント企画である。しかし、アパレル業界特有のセール販売やポイント還元のような安っぽい企画ではない。服に対して愛情が自然と芽生えてきてしまう、魅力的なイベント企画を数多く開催しているのである。

例えば、昨年の夏には19時以降に来店した顧客にクラフトビールを振る舞う“ふぁぶりっく横丁”というイベントを開催。ビアガーデンならぬオーダースーツ店でお酒が飲めるユニークな企画は、「採寸ついでに一杯どう?」というキャッチコピーで、敷居の高いオーダースーツのお店のイメージを大きく変えた。

また、西日本豪雨の際は、岡山県産のデニム素材を使ったスーツとシャツの売上を100%被災地に寄付する企画を打ち立てた。被害の大きかった岡山県と地場産業のデニム生地を絡めて、全額寄付するという大胆なチャリティープロジェクトは、ファブリック・トウキョウのブランド力を一気に高める企画となった。

店内にはスーツの生地がズラリと並ぶ。定番のブランド生地よりも、他社にないこだわりの生地を取り扱う(撮影=竹内謙礼)

「値段を決めてもらう」企画も

ブラックフライデーに開催された企画も面白い。ご存じの通り11月の第4金曜日は大セールの日。アパレル業界でも服を安く叩き売ることに必死だ。しかし、ファブリック・トウキョウでは、工場で眠っているサンプル生地で作ったオーダースーツを、顧客自身に値段を決めてもらう斬新な企画を展開。ブラックフライデーの真逆の“ホワイトフライデー”と銘打った企画は、限定20着の販売に対して2万件の応募を受けるほどのヒットとなった。

「昔は着るだけでワクワクするブランドが多かった。でも、ファストファッションとアパレル業界のEC化によって、楽しくてドキドキする服って少なくなった気がするんです。特にスーツやワイシャツは毎日着るもの。なおさら毎日がワクワクするようなコンセプトを打ち出していかないと、お客様は楽しい気持ちにはなれないと思ったんです」

森社長の言うとおり、ITによる効率化やAIの活用が進めば進むほど、服に対するワクワク感が減っているような気がする。自宅でサイズが測定できたり、気に入らない服を返品できたりする仕組みは確かに便利だ。サブスクリプションのように定額制で毎月いろいろな服が送られてくるのも今の時流に合っているといえる。

しかし、それで服を選ぶ楽しさや服を買う喜びも得られるのかといえば、答えはノーだ。ファブリック・トウキョウのように企画を通じて売り手側の姿が見えて、心が揺さぶられるような企画で消費心をくすぐられることが、今の服には欠けている気がしてならない。