30代~60代に必要な友人関係とは?
「あの……、河合さん、友だちいますか? 私、いないんですよ」
ボソッとこう切り出したのは、私が長年フィールドワークにしているインタビューの協力者のひとり、大手企業に勤める52歳の男性です。
これまで700人近くのビジネスパーソンの言葉に耳を傾けてきましたが「友だち」の有無を聞かれたのはこのときが初めて。少々ビビりました。だって、私はめちゃくちゃ友だちが少ないのです。1人、また1人と消え、ギリギリ2人はキープしていますが、正直、ヤバイです。
この男性も同じでした。仕事漬けの日々を過ごしているうちに、学生時代の仲間とは連絡が途絶え、同窓会の誘いは行く気になれず、会社の同期とも年々微妙な関係になり、遂に友だちと呼べる人がいなくなったと言います。
「ひとりでいるほうが楽な半面、時折ものすごく孤独を感じるんです。別に寂しいわけじゃないんですけど、やはり不安ですよね。俺、大丈夫かなって。来年役職定年です。若いときに描いていた未来と違いすぎます。下流老人や孤独死も人ごとじゃない」。男性はこうバツが悪そうに笑みを浮かべました。
孤独――。重い言葉です。孤独はめんどうくさい人間関係からの解放でもあり、束の間の孤独は日常にありふれているので、つい「それも人生」と受け入れてしまいがちです。しかし、「人生の午後」にさしかかった中高年にとっては別。人生の逆算が始まるものの、若いときに夢見た「悠々自適」は死語と化し、老後は楽しい仲間と思う存分趣味に興じる「思い描いていた未来」と現実とのギャップが大きすぎて、思考停止に陥ってしまうのです。
昔は「会社員」だけをしていれば、家庭からも社会からも「立派なお父さん」と評価されました。でも、今は違います。会社員以外の「何者」かにならなければダメ。「会社しか居場所がないつまらないヤツ」と烙印を押され、50歳を過ぎると「お荷物扱い」です。周りの厳しいまなざしを感じるほど、会社の壁を超え活躍する若い社員に引け目を感じ、運よく出世した同期に恨めしさが募り、曖昧な不安だけがひたひたと忍び寄る。誰かを飲みに誘おうにも、誰もいない。すると「あれ? 俺、友だちいないじゃん」と、とてつもない孤独感に襲われるのです。
※「プレジデント」(2019年3月4日号)の特集「毎日が楽しい『孤独』入門」では、本稿のほか、「経営者直伝 仕事に役立つ『ひとり時間』の使い方」、「『おひとり様向け』極上サービス大図鑑」など、“自分だけに使える時間”を充実させるためのノウハウがぎっしりです。ぜひお手にとってご覧ください。