「バズる」に必要な2つの要素
もう1つ僕の愛読書に『ギャンブルレーサー』(田中誠、講談社)という漫画があります。こちらも賭け事まみれの競輪選手の物語なんですが、これは僕の友人の哲学者から勧められた作品です。僕はこの「人から勧められた」とか、「世間でバズっている」という作品をチェックするのが好きなんです。少し前なら『進撃の巨人』(諫山創、講談社)。最近なら映画の『カメラを止めるな!』も、わずか制作費300万円で2館上映のみだったはずが、SNSや口コミでバズった結果ここまでの大ヒットに繋がりました。およそ自分だけの力や好みではたどり着かなかったであろう作品に、人の勧めで出会える喜び。
そもそも「バズる」という現象には2つの要素が必要で、1つ目は自分が素晴らしく感動した事実、2つ目は他人も絶対に心を動かされるはずだという確信です。例えば僕は蝶が好きだけど、人がみんな蝶好きになるとは限らないことを十分知っているから、無闇に人に勧めることもしないし、結果バズることもない(笑)。でも『カメラを止めるな!』はやはり、「ぜひ観たほうがいいよ」と勧めてしまいます。
世のなかでいま流行っていることは食わず嫌いせずに試すこと、時間がないならせめて背景を知るくらいはしたほうがいい。そうでないと世のなかの流れやマーケット把握から取り残されてしまうからです。
本の"雑食"は脳のマッサージ
もう1つ、本の“雑食”をお勧めする理由は、それが脳のマッサージになるからです。僕の本業は脳科学ですから、あらゆる文献や論文を日々読み漁ります。でもその一方で、ランキングに入っている『ブラック・ジャック』などは子どもの頃からの愛読書で数え切れないくらい読んでいますし、赤塚不二夫さんも全集を持つくらい大好き。いがらしみきおさんの四コマ漫画『ぼのぼの』や、子どもの頃から愛読している『古典落語』シリーズ(興津要、講談社)も手放せません。特にユーモアのあるものを読まれることをお勧めします。
最初にビジネス書の話をしましたが、読書には偏らずにいろんなタイプのものを読むことで、脳のバランスをとる効果もあるんです。東京大学名誉教授の養老孟司さんはミステリー小説ファン。アインシュタインはセルバンテスの『ドン・キホーテ』を生涯好みました。いずれも本業とは対極にあるような読書傾向ですが、全く異なる本を読むことで、人生のバランスをとれるということを彼らは本能的に知っているのでしょう。
1.『ナニワ金融道』
青木雄二 講談社
2.『坂の上の雲』
司馬遼太郎 文春文庫
3.『ブラック・ジャック』
手塚治虫 秋田文庫
「小説もマンガも物語性がしっかりしていないと人の心に届かないので、本質は変わらない。どちらも読めるのが正しいリテラシー」(茂木氏)。
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大大学院理学系研究科修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。「クオリア」(感覚のもつ触感)をキーワードに脳と心の関係を研究。