ジョブズになれなくても『スティーブ・ジョブズ』に感銘

例えばアップル創業者の伝記『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン著、講談社)や、フェイスブック創業者であるマーク・ザッカーバーグの伝記『フェイスブック 若き天才の野望』(デビッド・カークパトリック著、日経BP社)、日本人商社マンの苦悩を描いた『炎熱商人』(深田祐介著、文藝春秋)なども僕は読んで感銘を受けました。

もちろん、これらを読んだからといって僕がジョブズやザッカーバーグになれるわけでもない。でも、旧来の常識を覆し、自らの信念を貫いて大きな仕事を成し遂げた彼らの生き方にインスパイアされたいからこそ読んでいるわけです。そういう意味で、司馬遼太郎さんの作品はインスパイア系のど真ん中をいくもので、今後何十年と読み続けられていくのではないでしょうか。

そうした視点で眺めてみると、2位以下もほとんどインスパイア系ですよね。『キングダム』『海賊とよばれた男』『課長 島耕作』『オレたち花のバブル組』など。しかも作者が実際に会社という組織で働いた経験がベースになり描かれている作品も多い。

舟を編む』も、一見、正統的な文学作品に思えますが、静かなインスパイア系とも呼べます。地味だけど、重要で根気のいる辞書編纂という仕事に人生をささげる人々の物語は、どこか古き良き日本の職人気質を髣髴させます。これを読むと、僕なんかは『新幹線お掃除の天使たち』(遠藤功、あさ出版)を思い出します。新幹線が駅に停車する7分間で、清掃のエキスパートたちが車両空間を完璧に心地良い空間に整える、その「奇跡の7分間」を実現させた道のりの記録はハーバードのビジネススクールのテキストにもなりました。

さて、こうして見てきたなかで、実はちょっと意外だったのは『コンビニ人間』でした。とても面白かったのですが、正直ビジネスパーソンの投票によるランキングの上位に食い込むとは思いませんでした。でも、考えてみると、この作品も英訳されて海外でも評判を呼んでいるんですよね。コンビニエンスストアの発祥はアメリカですが、日本で独特の発展を遂げた。いまや世界中に進出したその独特の機能的なシステムや、日本人の職業倫理を理解するうえで、1つの手がかりになっているともいえるのでしょう。

人間心理の裏の裏まで読み尽くす

そしてここで白状しますが、実はこのリストのなかで僕が一番読み返してきた作品は、何を隠そう『ナニワ金融道』なんです(笑)。単行本はもちろん、再編集されてコンビニで並んでいるのもつい旅先で買ってしまい、読み返すたびに「やっぱり名作だわ」と感心しています。

人間くささをここまで深くえぐり出した作品はそう多くはないはずです。人間の欲や情が金と結びついたとき、建前ではない本音の部分が引きずり出される。作者の青木雄二さんに脱帽です。

金と欲といえば、ドストエフスキーの『罪と罰』も、実はギャンブルで借金まみれになったドストエフスキーがお金のために一気に書き上げた作品だといわれています。金と欲、侮れませんね。