スマホ中毒は「分かっていても、やめられない」
この言葉は、デジタルデバイスから離れて心身のバランスを取り戻すこと、そのような意味で理解されることがほとんどだ。GoogleやAppleが、彼らが提供するスマホに使用頻度を通知したり、使用を制限したりする機能を実装したことから、デジタルデバイスから離れることが、「デジタル・ウェルビーイング」の意味として理解されるようになった。
「デジタル・ウェルビーイング」を解説する記事の多くは、必ずと言っていいほど、スマホ依存、スマホ中毒を引き合いに出している。デジタルデバイスから離れることの重要さを際立たせるためだろう。そして、決まって「スマホ使用に意識的になり、離れることも大切だ」と締めくくられる。
私には、こうした記事を読んで得られるものが何なのか、実は一向に分からない。対価として支払った注意力を返してほしいくらいだ。依存や中毒なら、意志の力ではどうにもならない。「分かっていても、やめられない」。それが依存であり、中毒だ。
私たちのスマホ使用のあり方が、本当に、依存や中毒であるなら、私たちには、スマホの機能や意志の力だけでなく、その機能を使い続けようと意志できる「環境」こそが必要だ。ここに言う「環境」には、人間関係や労働条件、居住環境、法律や制度といったものが含まれる。
なぜフランスは「勤務時間外メール禁止法」を始めたのか
フランスでは、2017年1月1日から「勤務時間外メール禁止法」が始まっている。これは、労働者に、勤務時間外にデジタルデバイスの電源を切る権利を与えようという試みだ。ニューヨークでも同様の条例が検討されている。夜間や休日に仕事のメールを送った上司には、罰金が科されるそうだ。イタリア、ドイツでもこうした動きは広がっている。夜間にメールサーバーの電源を切り、物理的にメールが送受信できない様にすることで、労働者のプライベートを守ろうという企業もある。
顧客に対しても、スマホや携帯電話の使用を控えるように促す試みがある。イギリスで、イタリアン・アメリカンのレストランチェーンを展開するFrankie and Benny’sは、昨年末、“No Phone Zone” ポリシーを実施した。食事中、携帯電話をレストランのスタッフに預ければ、14歳以下の子ども全員に無料の食事を提供するというもので、「食事中は携帯電話よりも、家族や友人との時間を大切にしてほしい」と訴えた。携帯電話の使用を控える動機、それを生み出すようなサービスを店舗側が用意したわけだ。
これらはみな個人の努力でも、最新の機能でもない。私たちを取り巻く「環境」からのアプローチだと言っていい。
私たちはどういうわけか、デジタルについての話になると、人間の知性や感情、意志などの人間本性(Human Nature)、もしくはデバイスの機能に目を向けるだけで、私たちやデバイスを取り囲む「環境」には、まったく目を向けなくなる。これは大きな問題だ。