記憶は「後から聞いた情報」で変化する

毎年、私の講義でも学生に記憶のあいまいさを実感してもらうために、同じような実験を行います。ロフタス博士らの実験と異なるのは、半分の学生には「この事故で運転手が亡くなりました」、もう半分の学生には「この事故では運転手は軽傷で済みました」とビデオのあとに表示し、事故を起こした車のスピードを予測させることです。

運転手が亡くなったという情報を与えた場合は、回答の平均時速は約60キロメートル、軽傷で済んだという情報を与えた場合は平均時速40キロメートルと、同じビデオをみていても20キロメートルもスピードの評価が異なります。

このように、後から与えられた情報による記憶の変化は事後情報効果と呼ばれ、記憶は後から与えられた情報とつじつまが合うように変化することを示しています。そして多くの場合、記憶の変化は意識せず生じます。

“偽物の出来事”を「覚えている」と言う

とはいえ、この実験は実際に車が衝突するビデオをみせ、その事実についての評価が変わったというだけです。心理学者はこのような記憶の変容だけでなく、ちょっとした情報を与えるだけで、まったく経験しなかった記憶が形成されることも明らかにしています。

たとえば、ロフタス博士らが行った別の実験では、参加者が幼少期に経験した4つの出来事を提示しました。3つは本当にあった出来事ですが、1つはまったく経験していない偽物の出来事で、5歳の時にショッピングモールで長時間迷子になり高齢の女性に助けられた、というものです。参加者は、それらの出来事について覚えている内容を書き出すように、また覚えていなければ「覚えていない」と書くように指示されます。

この段階で、24人の参加者のうち、7人が経験していない偽物の出来事を覚えていると回答しました。その後、一週間から二週間の間隔をあけ、二度、4つの出来事の詳細とどのくらい覚えているかをインタビューしました。そうすると、偽物の記憶は思い出す回数が増えるほど、記憶の鮮明度の指標が向上したのです。

この研究は、人が経験していない出来事を記憶していることがあり、かつその経験していない記憶を思い出す回数が多いほど虚偽記憶が鮮明になることを意味しています。これまでの実験から、溺れて死にかけたがライフガードに助けられた、ディズニーランドでバッグス・バニーと握手した(バッグス・バニーはワーナー・ブラザースのキャラクターなので、ありえない話です)といった、さまざまな経験していない記憶が形成されることが示されています。