コーヒーを極めたい社員の「居場所」にもなる

一方で、最高級への追究は「コーヒー屋のロマン」でもあり、大手カフェがフルライン価格帯でチェーン展開する場合の必然かもしれない。「必然」には別の意味もあり、人材活用の視点では、コーヒーを極めたい社員の「居場所」にもなるのだ。

コーヒー生産量全体の5%程度といわれる「スペシャルティコーヒー」に造詣が深い菅野氏も、もしかすると「ドトール」や「エクセルシオールカフェ」だけでは、承認欲求が満たされなかったかもしれない。社内には菅野氏と二人三脚で動く若手社員がいる。グループ内には「カフェ レクセル」という店も展開し、同店はスペシャルティコーヒーと日本のカフェ文化の融合を掲げる。

高級コーヒーはコーヒー屋のロマン

競合で国内店舗数3位の「コメダ珈琲店」創業者の加藤太郎氏(現在は退任)は、かつて「吉茶」という高級業態を手がけた。ドトールの鳥羽氏は、「ロイヤルクリスタルカフェ」とは別の高級業態店を描いている。いつの時代でも、高級コーヒーへ想いは、コーヒー屋のロマンなのだ。

総合型として、多くの価格帯の店を持つドトールコーヒーにとって、高級店はロマンとソロバンの両立が求められる。親会社は一部上場企業のドトール・日レスホールディングスなので、採算性は無視できない。

今後、「神乃珈琲」をどう「身近さ」と「高級」のバランスで展開するか。

「カフェのお客は、来店動機によって求めるものが変わります。『休む』や『話す』を目的にしたお客さんには、高級なコーヒーを訴求しても伝わりません。味の好き嫌いはありますが、厳選された豆を使った本当においしいコーヒーを飲んだ人は、味の違いに驚き、価格の高さにも驚きます。欧州のように高い=おいしいのヒエラルキーができるまで、もう少し時間がかかるでしょう」(フードビジネスコンサルタント)

日々の接客をしながら、「話のネタに一度行けば十分」とならないための創意工夫を続けるのだろう。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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