金融庁と財務省が妙に積極的な「裏事情」

実は、金融庁や財務省など日本政府も、キャッシュレス化に旗を振っている。金融庁はフィンテックの拡大を後押ししているが、その前提として低いキャッシュレス決済比率の引き上げを訴えている。決済が電子化することによって、新しい金融サービスが生まれるというわけだ。ペイペイなどの決済システムもこうした新サービスの範疇に含まれる。仮想通貨(暗号資産)についても金融庁は規制整備などに積極的で、新サービスの拡大を後押ししている。

もちろん、金融庁や財務省がキャッシュレス化による決済の電子化に積極的になる「裏事情」もある。個人や法人の資金移動を把握することで、「所得」や「資産」を捕捉しようという下心があるのだ。当然、課税するためである。

日本では個人間の資金移動が現金によって行われるケースが多いため、なかなか実態把握が難しい。マイナンバーの導入で所得の正確な把握に一歩前進したとはいえ、かねて「9・6・4(クロヨン)」「10・5・3(トーゴーサン)」などと呼ばれた業種による所得把握率の格差は今も残っている。これが、電子決済が普通になり、マイナンバーと連動させることができれば、所得の正確な捕捉が大きく前進するというわけだ。

「2%増税なのに5%還元しちゃう」キャンペーン

来年10月1日の消費増税に向けて財務省が「還元策」のひとつとして考えているキャッシュレス・ポイント還元策はまさに「キャッシュレス化」を促進することが本当の狙いだ。消費税率の引き上げに伴う消費減対策としているが、対象を中小・小規模事業者に限っているところからも本当の狙いが明白だ。

実際には売り上げの正確な捕捉が難しい中小・小規模事業者の資金の流れを把握するには、決済をキャッシュレス化するのが一番。そのための大盤振る舞いである。「100億円あげちゃう」ならぬ、「2%増税なのに5%還元しちゃう」キャンペーンというわけだ。

お店によって還元したり、しなかったりする消費税対策には、日本チェーンストア協会など業界団体が反対の意見書を出している。大手の傘下でも個人が経営するフランチャイズ形式のコンビニエンスストアなども強く反発。こうした店舗には2%分を還元する案も政府から出ている。

消費税対策としては何が何だか分からない政策だが、キャッシュレスのためにカードリーダーなどを普及させようというのが本音だと考えれば、非常に分かりやすい政策だ。すでにカードリーダーなどが普及している大手ではなく、中小や小規模事業者の店舗にキャッシュレスのための設備を導入させたいわけだ。

ともあれ、2020年には東京オリンピック・パラリンピックに向けて海外から4000万人前後の観光客が押し寄せるとみられており、キャッシュレスが一気に進むきっかけになりそうだ。ペイペイが仕掛けた顧客争奪戦もそれまでには終息し、キャッシュレス決済の「主流派」が決定することになるだろう。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。