記者を志す者には必読の書になる
5月14日、A部長から「次の異動で考査部へ異動」と告げられる。一記者になってもいいから、森友学園問題を取材し続けたい。相澤氏の切なる願いは捻り潰され、NHKを辞める決心を固めるのである。
この本には、「森友事件は森友学園の問題ではない。国と大阪府の事件だ」と思い定めた相澤氏が、執念を燃やし、あらゆる記者としてのテクニックを駆使して、口の堅い検察幹部や財務局幹部たちの口を割らせ、その裏取りに走り回る様子が克明に描かれている。
随所に、「考えて考えて、頭が禿げるほど考え抜いてから取材に行け!」「自宅での取材は朝に」などのノウハウ。
籠池氏の自宅は閑静な住宅街にあり、そこに各社の記者たちが押しかけ、近所に迷惑をかけてしまうと思い、「私はたくさんの菓子折りを用意し、ご近所の方々にあいさつ回りをした。記者歴30余年の経験で学んだ礼儀だ」という気遣いの仕方。
籠池理事長の信頼を得るための質問のやり方から、その後の付き合い方、距離の取り方まで披露してくれている。記者を志す者には必読の書になるだろう。
NHKを辞めた最大の目的は、残された謎を解明すること
NHKを離れた相澤氏に、大手の新聞からも声がかかるが、森友学園を追い続けるために、大阪に記者として配属してくれという彼の願いは聞き届けられない。
その条件を呑んでくれ、存分にやってくれといってくれたのが大坂日日新聞だった。
相澤氏は、文書改ざんに関わり、自ら命を絶った近畿財務局の上席国有財産管理官・A氏のことがずっと頭に残っているという。
「国の最高責任者は安倍首相、大阪府の最高責任者は松井一郎府知事。二人は説明責任を果たしたと言えるだろうか。(中略)私がNHKを辞めた最大の目的は、この残された謎を全て解明することだ」
まだ、森友学園問題も加計学園問題も未解決のままだ。彼の取材力に期待するところ大である。
この本の中に、小池局長が直接相澤氏に「この原稿は載せない」「森友学園問題は書くな」といっているところはない。
小池局長の周りの人間が、局長のご意向を忖度して、彼の原稿を書き直し、ニュースで放送するのを遅らせているのだ。これが日本で一番力を持っているメディアの実態である。
だが、NHKの歴史を振り返れば、権力とのなれ合い、癒着は一本の棒のように貫いているといってもいい。