今年7月、麻原彰晃ら幹部13名の死刑が執行されたオウム真理教。彼らが起こした大事件から学ぶべき教訓とは何だったのか。宗教学者の島田裕巳氏は、「信念なき『普通の人』たちが凶悪犯罪を起こした。それは、オウムが日本組織に特有なタテ社会の構造をしていたからだ」と話す――。

※本稿は、島田裕巳『「オウム」は再び現れる』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

オウムにみる日本特有のタテ社会構造

オウム真理教の元代表、麻原彰晃(本名・松本智津夫)。(写真=時事通信フォト)

私たちは麻原のような人間も、オウムのような教団も、これから日本社会に出現することはないと考え、安心してしまっていいのだろうか。

一つ、私たちが考えなければならないことは、オウムの犯罪の原点は、秘密の隠蔽(いんぺい)にあったことである。これは、組織犯罪全般に共通することで、秘密の漏洩を恐れて、さらなる隠蔽工作を重ね、それが重大な犯罪行為を生むことにつながっていく。

日本は組織が発達しており、しかも、タテ社会の構造を示しているところに特徴がある。オウムもまた、明確にタテ社会の性格を持っていた。それが、オウムについての報道でも、さかんに取り上げられた「ステージ」である。オウムでは、どの程度修行が進んでいるかによって、その人間のステージが変化した。

オウムのステージは、最初の段階では、尊師を頂点に、クンダリニー・ヨーガの成就者である大師、ラージャ・ヨーガの成就者であるスワミ、そして、一般の出家信者であるシッシャに分かれていた。

細分化された「省庁制」の中身

それが、松本サリン事件を起こす1994年6月の時点では、相当に細分化が進んでいた。やはり尊師を頂点に、正報師、正大師、正悟師長(悟長)、正悟師長補(悟長補)、正悟師(悟師)、菩薩師長/愛欲天師長(菩長/愛長)、菩薩師長補/愛欲天師長補(菩長補/愛長補)、菩薩師/愛欲天師(菩師/愛師)、小師(スワミ)、師補(スワミ補)、サマナ長、沙門(サマナ)、見習(サマナ見習)、準サマナに分けられていた。

この年の9月時点では、正大師4名、正悟師8名、菩薩師長13名、愛欲天師長9名、菩薩師長補28名、愛欲天師長補17名、菩薩師67名、愛欲天師58名、沙門311名、見習345名だった。正報師については、麻原の四女だけがそのステージにあったとされる。これは、麻原の次女が自身のブログのなかで指摘している。人数が判明しない正悟師長などについては不明である。

教団内部では、ステージによって権限に差があり、ステージが下の者は、上の者の指示に従わなければならなかった。上意下達のシステムができあがっていたわけである。

さらにオウムでは、同年6月20日に「省庁制」が導入された。それぞれの省庁の責任者には、ステージの高い出家信者が就任した。大蔵省などはたんに教団の経理部門ということになるが、井上嘉浩が事実上のトップだった諜報省(CHS)では拉致などの非合法活動を行った。また、遠藤誠一の第一厚生省や土谷正実の第二厚生省では、細菌兵器、あるいは化学兵器の製造を行った。