成果主義導入でも離職率はわずかに1.3%
昇格しても決して安心してはいられない。降格すれば当然減給となる。常に自身の成長に向けたチャレンジが求められる。昇格・降格だけではない。同社は01年の人事制度改革により、一般職の社員でも全員が一律自動的に昇給する定期昇給を見直し、能力評価によって個人ごとに昇給幅が異なる仕組みを導入している。
能力評価とは別に年2回実施される業績評価は賞与に反映されるが「個人の評価によって支給の幅を相当持たせている」(冨田人事部長)という。
年齢給的要素を排除し、賃金制度でも完全に年功序列色を払拭している。厳格でメリハリのある成果主義的人事制度は運用によっては社員の離反を招く恐れもある。企業各社は制度のマイナーチェンジを実施しているが、やり方を間違えばモチベーションの低下や社員の流出も発生しやすい。
その点、テルモは導入後9年目を迎えるが、増収体質を維持する一方、社員の離職率はわずかに1.3%(08年)と驚異的な数字を誇る。これだけを見ても同社流の手法が奏功していることがわかる。これで安住していてもよさそうだが、冨田人事部長は「まあ、この程度でよいだろうと思った瞬間から、テルモは再び危機に向かうと経営陣は考えている。風土改革に終わりはなく、それを支援する人事制度もその時々の状況に合わせて、常に見直していく必要がある」と手綱を締める。
すでに業績評価制度の評価ツールである目標管理制度の廃止を含めた見直しにも着手している。目標管理制度は期初に上司と相談のうえ、目標を設定し、その達成度を評価する仕組みであるが「自分で勝手に仕事をつくり、ハードルを決めることで、逆に会社にとって意味のない仕事を生むか、あるいは越えやすいハードルを設定するためにチャレンジしなくなる可能性もある」(冨田人事部長)という。
さまざまなチャレンジの仕組みを絶えず生み出していく背景には、社員が成長志向を失えば企業も成長しないとの考えが根底にある。人を切らない経営を堅持する一方、資産としての社員の成長を促すことで会社の発展を図る。同社が創業85年を記念して07年に作成した小冊子の「テルモのこころ」でもこう謳っている。
〈テルモでは、アソシエイトを会社の資産と考えます。資産はそれを活かし、活かされることで新しい価値を生み出します。アソシエイトには、自らの能力を最大限に発揮し、資産としての価値を高めることが求められます。資産であることに安住し、企業の発展に寄与しなければ、それはただの不良資産です。テルモは不良資産の存在を認めません〉
人はコストではなく資産であり、人が成長しないと企業は成長しないとの揺るぎない信念がここにはある。