40歳を過ぎたら、どうやって生きていくべきか。43歳のお笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世さんは、「芸人としては負けてしまったが、『貴族のお漫才』でも悪くないと思えるようになった。おじさんが生きていく上では、自分で自分を諦めてあげることが大事かもしれない」と話す。同い年の社会学者・田中俊之さんとの「中年男再生」対談をお届けしよう――。

※本稿は、田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)の第4章「僕らどうやって生きていこう? 仕事と生き方論」を再編集したものです。

「飯を食えている」=プロ

【田中】「40歳を過ぎたおじさんが、これからどうやって生きていくのか?」という話に入っていきたいと思います。“儲かる/儲からない”とか“飯が食える/食えない”という基準だけで行動を選択していくと、利己的な年寄りになっていくしかない気がしていて。他人のこと、あるいは社会全体のことを考えられるようになれれば、年を重ねる意義もあると思うんです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/somchaij)

【山田】でも、先生がおっしゃっているのは理想論じゃないですか? もちろん大事だと思うんですが、芸人の世界では、飯が食えるかどうかが、プロかどうかの分かれ目という考え方をしてる人が多いです。

たとえば、ハローケイスケさんっていう先輩芸人がいて、正直「一発屋」でもない、「0.5発屋」ぐらいの人なんです(笑)。その方に、『一発屋芸人列伝』(新潮社)の取材をお願いしたとき、わざわざ衣装を着込んで新潮社に来てくれたんです。それを見た担当編集が、「いやあ、さすがプロですよね!」みたいなことを言ったら、すごく食い気味に「いや、飯食えてないんで、プロじゃないですから!」みたいに返されたんですよ。

ハローさん的には、「食えるか食えないか」が、プロかどうかの一線なんだと思います。僕も、今はなんとか飯が食えてるから「プロ」って言えますけど、食えてないときは言えませんでした。バイト先の面接で「普段は何やってるの?」って聞かれても、「芸人です」って言えなかったですもん。

給料のために仕事をしていても「プロ」

【田中】お笑い芸人さんは、食えなくても腕が証明してくれるというか、それこそ「プロには評価されている」みたいな部分もあるんじゃないでしょうか。

【山田】でも、売れてないとそもそも仕事をする場がないですし。そうすると、腕を証明しようがない。先生がおっしゃるようなことになればいいなとは思いますけど、結局、お客さんから認められることでしか成り立たないんですよね。

芸でお金をもらって「飯を食えている」という状況だけが、自分がプロであることを証明してくれる。ほかに証明してくれるものがないんです。もちろん、そういうのがなくても、自分の中でちゃんと踏ん張れる気持ちがあると心強いんですけども。

【田中】なるほど。僕も、大学教員の仕事で食べられるようになったから、そういう理想を言えるのかもしれないということは自覚する必要がありますね。一方で、40歳ぐらいで、給料のためだけに仕事をしていて大丈夫なのかと自問自答するのは悪くないのではないでしょうか。

【山田】そういう人も、それで飯が食えている限り、プロですよ。堂々とプロと名乗っていいと思います。