結婚すると「やりがい」よりも「収入」

【田中】仕事において、やりがいと収入ってなかなか両立しませんよね。やりがいはあるけど、収入は低い。あるいは逆に、収入はいいけど、やりがいがない。

以前、行った調査で、「できれば働きたくない」という質問項目を設けたところ、そう思っている人が半分、そう思っていない人が半分という結果になりました。男女で差は出なかったのですが、既婚/未婚で比較すると、未婚者のほうが「できれば働きたくない」と回答する人が多かったんです。

これは怠け者だから独身だという話ではなくて、結婚して、さらに子どもがいると、「働きたくない」とは言えなくなるからでしょう。他の研究でも、結婚すると、とりわけ男性の場合は“やりがいや専門性”よりも、“収入や安定性”を仕事に求めるようになることが指摘されています。

【山田】へーえ。

負けたり諦めたりするのも悪い選択じゃない

【田中】一番いいのは「やりがいもあって収入もある」仕事ですが、それは難しい。だから、「安定性はないけどやりがいはある」、あるいは「安定性はあるけどやりがいはない」、どちらかに比重を置かざるをえない。ただ、今は時代が厳しいし、世代的にも両方ない場合が少なくありません。

【山田】ハハハ……って、笑い事じゃないですね。就職氷河期世代というやつ、まさに我々のことですよね。

【田中】ええ。当時は見込みが甘くて、「景気はすぐに回復するから、それから正社員になればいいや」みたいな感じだったわけです。でも、男爵の言葉を借りれば「負け残り」ということになるわけですが、既存のレールから外れたからこそ見える風景もあるはずです。

僕自身、大学院生だった20年前に誰も見向きもしない男性学を専門としたことで、研究者間の競争にさらされることなく、なんとなく生き残りましたし、自分なりの視点を獲得できました。厳しい状況に置かれている世代だからこそ、ここから新しい価値観を作り出していきたいという思いもあります。

【山田】まさに、僕なんて正統派の芸で負けた結果、「貴族」を選べたわけですから、負けたり諦めたりするのも悪い選択ではないかと。