顧客の生の声が経営戦略の貴重なデータに

企業の本音としては社員がツイッターに時間を割くのであれば、それに見合った利益が欲しい。ツイッターで売り上げは上がるのだろうか?

アメリカの例だが、パソコンメーカーのDELL(デル)はデル・アウトレットというツイッターアカウントを通じて、余剰品や再生品のようなアウトレットパソコンをネット上で販売している。新品と違い、いつ、どんな商品が“店頭”に並ぶのかはデル自身も予測できない。そこで商品が入荷次第、ツイッター上で逐次ユーザーに情報を提供している。それが掘り出し物を狙うユーザーに受けて300万ドル以上を売り上げ、フォロワー数は157万人(2011年2月現在)に達している。

300万ドルという売上金額はデルにすれば大きなものではないが、デルが発信する情報の有益性を顧客に示す格好のモデルになっているし、それはデルのほかのアカウントにも好影響を与えている。わざわざハガキに書いて送るほどではない要望が、ツイッターだと気軽につぶやかれる。続々と届く顧客のナマの声は経営戦略上の重要なデータとして役立っているという。

企業目線の一方的な情報発信が一番嫌われる

では逆に嫌われるツイートは何だろう。口コミマーケティングを研究する業界団体のWOMマーケティング協議会の調べでは、なによりも「企業目線のツイートが嫌われる」ことがわかっている。デジタルマーケティング会社のビルコムの太田滋氏は「自分たちが言いたいことだけを一方的にメルマガのようにつぶやいたり、宣伝ツイートが多かったり、ユーザーから質問があっても何も返さないようなツイッターは失敗している」と指摘する。

「ツイッターをツイッターだと考えないことが大事。つまり人対人のコミュニケーションなのです。リアル店舗にお客様が来店したら『いらっしゃいませ』と挨拶をするし、質問に答えたり在庫確認をしますよね。コールセンターやカスタマーセンターでは、電話の向こうのお客様に正確な情報が伝わるように懸命に説明します。ところがこのようなお客様と直接話をする関係と、インターネットやソーシャルメディアを通じた関係は別物であると企業は考えがちなのです。でもコミュニケーションの本質は同じなんですよ」

そうはいってもコールセンターなどと違い、ツイッター業務に大人数を張り付けることは現状では難しいだろう。それに企業の公式アカウントからの発信だけに、つぶやく担当者によって企業イメージがぶれるのも好ましくない。ソフトバンクグループの孫正義氏のようにトップ自身が企業の顔であり、ツイッター慣れしているのであれば、一任してしまう手もあるが、多くの企業ではそうもいかない。

そこで太田氏は、企業に対してユーザーは何を期待しているのか、どんなイメージを持っているのか、企業としてどのようなことを伝えなければならないのかを分析して「ペルソナ(人物像)を創る」ことを提案している。

「例えばちょっとカジュアルなんだけれども人見知りをするタイプの30代男性で、でも見知らぬ人に対してトゲトゲしく応対することはない。住んでいるのは目黒区内の私鉄沿線のエリアでというように」

実際にツイートする担当者は複数いてもいい。年齢、性別、生活環境などが違っても、ペルソナにふさわしいツイートかどうか常に意識することで一貫性が保てる。社内の人材でまかなうことができなければ、専門会社に委託する方法もある。ビルコムでは「企業側とペルソナを共有して、複数の担当者が持ち回りでツイートしている」という。それは“なりすまし”などではなく、広報業務を外部委託しているようなものと位置づければいいだろう。