悪質な後見人の例を紹介しましょう。よくあるのは妻が専業主婦で、夫婦の財産のほとんどの名義が夫のものとなっている状態で夫が認知症となり、専門職後見人がつくケースです。

この場合の夫の財産は実際には夫婦の共有財産といっていいものです。しかし専門職後見人が入ってきたら、すべて妻の手から奪い去られてしまいます。財産がいくらかも教えてもらえず、夫の財産や年金収入から妻の自分に渡される生活費さえ、後見人の言うがままに制限されてしまうのです。

「実家に母を連れていくので旅費をください」と頼んだら、「行く必要はない」と一蹴された娘さん。「あんたの生活費に月5万くれてやる」と言われた奥さん。「自分の分の財産をはっきりさせたいなら、離婚するんだな」と言い放たれた奥さんもいます。

このような事態に陥らないためにも私は「任意後見制度」を利用することをお勧めしています。本人の意思がはっきりしているうちに、たとえば70歳になったのを機に後見人を選んでおくのです。家族や知人、懇意にしている弁護士など好きな人を選んで、公証人役場で公正証書を作成します。費用は5万円程度です。

よく「うちは息子がいるから大丈夫。後見人はいりません」と言う人がいますが、大きな間違いです。ここまでご紹介した現実を肝に銘じていただきたいと思います。

なお、図は後見人の必要度と費用の目安を算出したシミュレーションの一例です。入力条件を変えれば必要度・費用も変わります。

宮内康二
一般社団法人後見の杜代表
1971年生まれ。早大卒。南カリフォルニア大老人学大学院修了。著書に『成年後見制度が支える老後の安心』など。