家裁に提出される後見人候補者の名簿は、弁護士会、司法書士会などの業界団体が作成します。こうした団体は地元の家裁と意を通じており、ほかの地域の同業者が後見人に選任されるのを好みません。このため、たとえ申立人が自分の知人の弁護士を後見人に希望しても、ほとんどの場合は棄却されてしまうのです。代わりに選任されるのは、名簿に搭載された地元の弁護士なり司法書士です。

「見ず知らずの弁護士を後見人にするくらいなら」と取り下げを試みる人も多いのですが、いったん申し立てを行ったら、家裁の許可がないかぎり取り下げることはできません。

70歳になったら任意後見人契約を

成年後見人の仕事はどれだけ「おいしい」ものなのでしょうか。

後見人の報酬額は家裁が決定しますが、その額は被後見人の預貯金に比例します。このため被後見人に資産が少なく、とりわけ生活保護を受けているような場合は、専門職後見人の多くが受任を嫌がります。

家族はおろか被後見人にもほとんど面会しようとしない専門職後見人が多いといわれますが、それは被後見人に会いに行こうが行くまいが、報酬額に変わりはないからです。報酬の目安は図に示した通りですが、被後見人が亡くなるまでの総額では数百万円から場合によっては1000万円超に上ります。そうした報酬の詳細を被後見人の家族が知ることはできません。

後見人の権限は強力です。後見人がついてしまうと、子供でさえ親(被後見人)の資産内容を簡単には教えてもらえなくなります。それどころか後見人は、被後見人を介護施設へ入居させるとか、家裁からの許可を得たとして家を売ることまで家族の同意なくできるのです。その一方、被後見人や家族への態度が不誠実だといった理由で解任しようとしても、まず認められることはありません。後見人の辞任・解任はほぼ次のような不祥事がらみです。

00年から15年までの16年間で約40万件あった後見のうち、約1%で後見人が解任され、約8%が辞任しています。解任理由の多くは横領です。しかし横領を行った専門職後見人のうち解任されるのはごく少数。家裁からの辞任勧告を受けて、本人が横領したお金を返して後見人を辞任すれば「お咎めなし」とされるのが実情です。辞任の中にも「プチ横領」のケースが紛れ込んでいるわけです。