川上より川下に「商機」あり!

この2つのトレンドによる大変革によって、エネルギー業界の事業構造はどう変わっていくのか。エネルギー供給のバリューチェーンの中で考えてみよう。

分散型発電の拡大によって、資源の開発や生産、集中型発電といった、「電力供給の上流にかかわる付加価値は長期的には減少していくでしょう」と佐藤氏は言う。中期的には再生可能エネルギー特有の出力変動をカバーする「調整力」としての価値が高まるかもしれないが、蓄電池のコストダウンや需給調整技術の進化で、いずれその必要性も低下していく。

発電所から需要地の近くの変電所までを結ぶ「送電」にかかわる付加価値についても、短・中期的には増大すると思われるが(風力発電や太陽光発電は設置場所の制約や自然条件から立地が偏りがちなため)、長期的には付加価値は減少するだろう。蓄電池などの需要家に近いレベルでの需給調整技術が十分に発展し、「地産地消」のシステムが各地に設立されれば、地域間の長距離送電の必要性は薄れてしまうからだ。

一方、変電所から個々の需要家までを結ぶ配電にかかわる付加価値については、短・中期的に増大し、その後も一定の価値が残るだろう。個々の需要家が設置する太陽光発電などの分散電源は、配電網に接続されることになるため、配電システムの増強や運用の高度化が今後も必要になる。長期的にみて、蓄電池などの需給調整機能が十分に普及したとしても、配電網内での電力・調整力の融通は引き続き必要になることが考えられる。

そして小売については、電力・ガスの供給だけでなく、通信回線、家電などをスマートフォンで遠隔制御できるホームオートメーションや、戸締まりをチェックできるホームセキュリティなど、幅広いサービスをワンストップで提供するビジネスが拡大するだろう。需要家が保有する発電設備や蓄電池などを使い、余った電気を売ってトータルのエネルギー料金を下げるといったソリューションビジネスも増えるはずだ。配電と同様に短・中期的には付加価値が増大し、その後も一定の価値を保ち続けると思われる。

「端的に言えば、上流はあまり儲からなくなっていきますが、需要家に近いところではビジネスチャンスが増えていく可能性が高いということです」と佐藤氏は言う。