上海公演で背負ったメッセージ
そんな齋藤が中心となる、グループ初の海外単独公演(上海)が目前に迫っていた。齋藤はミャンマー人を母親にもつ。アジア展開を担う中心メンバーとしての期待がかかっていた。
だが、齋藤には自分が中心になるという喜びよりも先に、気がかりがあった。デビュー以来、7年間苦楽を共にしてきた西野七瀬が年内いっぱいでの卒業を発表しているからだ。重要な部分のトークや締めの挨拶は自分ではなく、西野にこそふさわしい。齋藤は珍しく、スタッフに自分の意見を伝えた。しかし、制作スタッフは首を横に振る。
【制作スタッフ】「このメッセージは飛鳥に背負ってほしい。われわれが海外に出ることで世界中にわれわれの文化を広げられるように努力したいということを、自分の言葉で飛鳥に語ってほしい」
個人の感傷を仕事に持ち込むべきではないことは自分でもわかっている。しかし自分の気持ちとは裏腹に、周囲の期待が膨らんでいく。期待されることはうれしいが、今回は素直に喜べなかった。
【齋藤】「いつもは何も意見は言わないんですけど、今回は大事な海外公演一発目だし、なな(西野七瀬)の最後が近いし……」
不安を拭うためだろうか、一人端っこで振り付けの確認に没頭する齋藤。「本当にお客さんが入るのかな」などと、つい弱音を吐いてしまう……。
自分の言葉で気持ちを語った締めのあいさつ
しかし、そんな心配をよそに、会場前には1万人を超えるファンが押し寄せ、熱烈な飛鳥ファンが渾身のエールを送る。
上海ライブの幕が開くとそこには本番前の自信なさげな彼女の姿はなく、乃木坂46・齋藤飛鳥としてステージのセンターで輝く姿があった。そして締めの挨拶では、自分の言葉で、今の気持ちを見事に表現してみせた。
ライブ終了直後の齋藤に近寄ってみると……
【齋藤】「すごく楽しくて、ライブ好きなんでいつも楽しいんですけど、きょうは特に楽しくて、なんか。うーん……ダメかもしれない」
言葉を詰まらせ、カメラに背を向ける。初の単独海外公演で予想を超える喝采を浴びたライブ直後の興奮。まもなく卒業する仲間のこと。齋藤飛鳥の胸の中にはさまざまな感情が膨れ上がっていたに違いない。
けれど、涙を拭い、振り返った齋藤は、もう笑顔だった。
【齋藤】「なんでもないです。なんでもない」
やっぱり本当の自分は内緒にしておきたいようだ。トップアイドルとして生きる齋藤飛鳥の第二章。そろそろ「私でいいんですか」なんて、言えなくなりそうだ。
乃木坂46・アイドル
1998年東京出身。日本人の父とミャンマー人の母を持つ。13歳の時に乃木坂46の1期生としてグループ加入。マスクで顔が覆われてしまうほどの小顔の持ち主で、その抜群のプロポーションで雑誌『Sweet』のレギュラーモデルを務めるほか、テレビ・映画・ラジオなど活躍は多岐にわたる。読書好きで好きな小説家は貫井徳郎と安部公房という文学好きな一面も。