リーダーの条件として、僕は後継者を選ぶ能力も重要だと考えています。偉大なリーダーでも、後継者選びに失敗したケースは枚挙にいとまがありません。カエサルはその点でも、優れていました。

後継者に指名したのは、養子のアウグストゥス。カエサルが死去したとき、弱冠18歳でした。目立たず、軍事的才能も乏しい彼が後継者になるとは、まわりの誰も思っていなかった。しかし、カエサルは、アウグストゥスが忍耐強く、1度決めたことは最後までやり抜く性格であることを見抜いていました。自分の仕事を引き継ぎ、新しいローマの体制を完成させるのに適任だとわかっていたのです。

立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏

またカエサルは、決して聖人君子ではありませんでした。「英雄色を好む」といいますが、実際に愛人がおおぜいいた。しかし誰からも恨まれなかったそうです。さらに稀代の浪費家でもあり、莫大な借金があったといわれています。

ただカエサルにお金を貸していたローマの有力者たちは、カエサルが出世して借金を返せるように、必死で支援を続けざるをえなかった。冗談のような話ですが、それがカエサルの成功要因の1つだとも考えられている。きっと人もお金も引きつける、スケールの大きい人物だったのでしょう。

戦略を考えるとき戦略書を読むな

「その本のどこが参考になりましたか?」。本を紹介する際、よく聞かれる質問です。しかし、それは愚問というもの。名著というのは、どこがいいというのではなく、全体が優れているからこそ、名著なんです。試しに、名著といわれる書物を手に取って、無作為にページをめくり、目に飛び込んできた文章を読んでみてください。すべてのフレーズが心に沁みるはずです。

そしていい本は時間がかかってもいいので、辛抱して最初から最後まで精読すること。飛ばし読みをしてはいけません。いい本は、読んですぐに役に立たなくても、内容が読み手の血肉になって、どこかで必ず生きてきます。

経営戦略を考えるときも、戦略に関する本ばかり読むのはお薦めできません。いいアイデアは、仕事のことをあれこれ考えているときには出てこない。仕事から離れて、仕事と関係なさそうな本を読んでいるときに、ふと浮かんでくることが多いものなのです。ですから、日頃からアンテナを広げて、興味の赴くままに幅広いジャンルの本を読み、知識を吸収しておくことです。

人間とは何か、社会とは何かを理解しなければ、ビジネスの戦略は立てられないと僕は思います。そこで、人間や社会を知るうえで役立ちそうな本を、新しい本を中心にご紹介しましょう。