無類の読書家として知られ、古典にも精通している立命館アジア太平洋大学の出口治明学長。挙げたのは、英語名「ジュリアス・シーザー」として知られる、古代ローマの政治家・カエサルが自ら綴った戦記集だった――。

カエサルは、世界史上でも屈指のリーダー

子どもの頃、ほとんどの人は「偉人伝」を読んだことがあるでしょう。そのときは、昔の英雄たちの活躍に、胸を躍らせたり、感動したり、憧れたりしただけだったかもしれません。しかし、ビジネスパーソンの皆さんには、そうした伝記をぜひ、もう1度読み返してもらいたい。なぜなら、偉人伝こそ、最高の人生の教科書だからです。

『カエサル戦記集』●高橋宏幸・訳/岩波書店 本邦初訳の巻も含む、2015、16年に発売された新訳。訳注・解説・索引なども充実している。

人生には、成功の法則などありません。先人の生き方をケーススタディにして、生き抜く知恵を学ぶしかない。偉人たちは天才です。天才は文字通り天賦の才能ですから、なかなか一般の人が同じような偉業を成し遂げることはできないでしょう。しかし、生き方を模倣することはできるはずです。

数ある偉人伝の中でも、僕が一番お薦めしたいのは、古代ローマ最大の政治家であり、偉大な軍人でもあった、カエサルの足跡を記した『カエサル戦記集』です。カエサルは、世界史上でも屈指のリーダーだと、私は考えています。『カエサル戦記集』を読めば、彼がどのように戦い、勝利を収めたのか、どのようにしてリーダーシップを発揮したのかがよくわかります。

偉人伝のほとんどは、側近や部下など偉人のまわりにいた人が記していますが、カエサルは文筆家としても高く評価されており、本書もその大半を自ら執筆している。読めば歴史の当事者であった彼が何を思い、どう考えていたのかが、ダイレクトに伝わってくるのです。偉人中の偉人の、しかも、本人の生の肉声を知ることができるわけですから、読まない手はないでしょう。

「英雄色を好む」を地で行った男

僕がカエサルに惹かれるのは、国家のグランドデザインを描ける戦略家の中でも、彼が傑出した存在だからです。グランドデザイナーは、それほど多くいるわけではありません。日本の歴史を見ても、蘇我馬子、足利義満、大久保利通、吉田茂など、10人いるかいないか。そうした中で、カエサルは、強大な軍隊と官僚組織をつくり上げ、世界史上で最大級の国土を有し、1000年以上続いたローマ帝国の基礎を築いた。いかに優れたグランドデザイナーであったかがわかります。