マイクロソフトのこうした大きな変革に興味を持ち、私は『マイクロソフト 再始動する最強企業』を書くためにアメリカ本社の幹部にも取材することになるのだが、そこで聞いたのは、驚くべき話だった。当時、マイクロソフトは右肩上がりの業績好調な最中にあったが、CEOが代わって最初にしたのは、「自分たちは何のために存在しているのか」を改めて問うことだったというのである。世界最大のソフトウエア会社が、自分たちの存在意義を見直すところから始めたのだ。
ミッションとカルチャーを作り直した
そしてまず会社の「ミッション」を変えた。マイクロソフトといえば、ビル・ゲイツ氏が作った「すべてのデスクと、すべての家庭に1台のコンピュータを」というミッションが有名だが、当時はとんでもないことだと思われたこのミッションは後に実現されてしまった。2代目CEOのスティーブ・バルマーの時代にもミッションはあったが、それほどインパクトのあるものではなかった。そこでナデラCEOは、改めて自分たちの存在意義を見直し、ミッションを作り直したのだ。それが、これである。
「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」
ミッションに加えて、ナデラCEOが変えようとしたものがある。会社のカルチャーだ。大企業になり、保守的な動きが目立つようになっていた中、CEOになった日の朝、経営幹部たちへのミーティングで「グロースマインドセット」という言葉を使い始める。これが、カルチャー変革のキーワードになった。成長しよう、リスクを取ろうというメッセージだ。
ソフトウエアからクラウドへ
そしてCEO自らが、就任から間もないタイミングでこれを実践する。なんと、ビジネスモデルを大転換させることを発表するのだ。ソフトウエアからクラウドへのシフトであり、Windowsの無償化という驚くべき決断だった。
マイクロソフトは創業以来、ソフトウエアのライセンスビジネスによって売り上げを立ててきた。1台のパソコンにOSであるWindowsが入り、Officeをはじめとしたアプリケーションが入り、それらはライセンスの形で販売された。アップデートが行われれば、有償でライセンスが与えられた。アップデートの度に、課金ができるというビジネスモデル。これが巨額の売り上げ、利益を生み出した。