ところが、ナデラCEOはこのビジネスのスタイルを変えていくと宣言するのである。ライセンスから、クラウドを使った消費量へ。存在意義を見直したからこその大胆な見直しだった。となれば、ビジネスのスタイルも変えざるを得ない。1回だけ売り込んで買ってもらえばいい、という商売ではなく、長くたくさん使ってもらう商売をしないといけない。発想の大転換が必要だった。そのキーワードに据えられたのが「オープン」だ。

かつてのライバルと手を組む

そしてここでも、ナデラCEOはその先頭に立って仕事を変えていく。驚くべきことに、なんとかつてのライバルと次々に手を組み始めたのだ。CEO就任から1カ月ほどで、自らシリコンバレーを訪れ、競合他社に相対。オープンソフトウエアの世界のエンジニアたちとも提携を結んでいる。

これはITの世界の人には驚天動地の出来事だった。ソフトウエアで圧倒的な力を誇ってきたマイクロソフトは、競合他社ではなく、自社製品ですべてをまかなう「クローズ」な道を選んでいたからだ。しかし、これが結果としてマイクロソフトの取り組みを後手後手に回させた。だから、停滞が起きたのだ。

ところが、これを「オープン」にシフトする。オラクルとも、セールスフォース・ドットコムとも、Linuxとも、さらには驚くべきことに、長年のライバル、アップルとも手を組んだのだ。iPhoneは敵ではなく、マイクロソフトのアプリやサービスをたくさん使ってくれる素晴らしいデバイスだ、と。実際、アップル向けのソフトウエア部隊もできた。

十数億ユーザーという強み

端的に、マイクロソフトはクラウドを使ってもらえばいいのである。そのトラフィックそのものをマネタイズするのだ。ここでたくさん使ってもらうには、自社製品のみならず他社製品でもまったく構わない。競合も含めたいろんな会社で素晴らしいIT環境を作れば、それだけクラウドを使ってもらえることになる。

一方で、競合から見ると、マイクロソフトのソフトウエアを使っているユーザーは世界で十数億人いる。アップルにしても、iPhone上でOfficeが動くことは、ユーザーの大きな利点になる。双方が、ウインウインになるのだ。さらに、Windowsはゲーム機のOSにもなり、IoT機器のOSにもなった。こうして、あのアップルまで、マイクロソフトは今や自分たちのビジネスに取り込んでしまったのである。