働き盛りの世代が逃げられないのが「実家をどうするか」という問題。面倒だと放置してしまうのは危険だ。早めに手を打つにはどうすればいいか。今回、5つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第5回は「兄弟姉妹の親争奪戦」について――。(第5回、全5回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

泥沼の「争続」を引き起こす遺産とは

相続を「争続」と言い表すことがあるのをご存じの方も多いでしょう。この言葉は、遺産分割を巡って親族が揉めるという相続の負の側面を端的に言い表しています。実際、相続を巡るトラブルは、家庭裁判所で受理した「遺産分割に関する処理」の件数だけでも、25年前の約1.5倍となる1万4662件に増加(2016年)。調停に持ち込まれるのはごく一部なので、日本中でこの数倍、数十倍の「争続」が繰り広げられていることになります。

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こう言うと、「うちは遺産なんてないから大丈夫」と思われるかもしれません。ですが、実際には資産が少ないほうが揉めるのです。資産が多ければ、被相続人=親が自発的に相続対策を行うこともありますが、資産が少ない場合は「仲良く分けてくれればいい」と「ノーガード」の状態で死を迎えてしまうことが多いからです。ここから泥沼の戦いが始まります。

実際の例を紹介しましょう。ある家族は、兄夫婦が都内の実家で母親と同居し、弟夫婦は地方に住んでいました。そして、母親が遺言書を残さずに亡くなった。残ったのは、都内の土地・建物と、わずかな現金です。兄は、「母親の面倒を見た自分たちが家をもらう」と主張しました。しかし、弟は納得がいきません。「兄貴は都内に家賃も払わず住めているのに、自分たちはまだローンが残っている。実家は売って金をくれ」と主張しました。

このケースには、トラブルの種がいくつも潜んでいます。まず、相続財産のメインが不動産である点です。財産の中には、現金のように単純に分けられるものと、不動産のように分けられないものがあります。この場合、たとえ母親の持ち物であっても、兄夫婦の住まいでもあるため「住み続けたい」兄と、「売ってお金にしてほしい」弟は対立します。地方の不動産であれば、売ったところで大した金額にはならないので、兄が不動産を相続し、弟が兄から相当分の現金を受け取ることで問題は収束しますが、都内であればそう簡単に弟へ払える金額ではありません。