愛用の腕時計は7800円、シャツは980円の既成品

そのテープは擦り切れるほど聞き返しましたが、25歳で独立してから引退するまでの30年近くは、きちんと音楽を聴いた記憶がありません。我慢していたのではなく、仕事に没頭していたからです。車の運転中に聞いていたのは、営業所の会議や直営店の朝礼を録音したテープです。それを聞くと「ああ、あのパートさんは今こんな様子なんだな」とイメージが湧くのです。

引退して5年ほど経った頃、名古屋市内に自宅を探していたとき、たまたま中心部の栄地区でまとまった土地を買うことができました。そのとき初めて、ここなら小規模なコンサートホールを建てられるな、とひらめきました。それでつくったのが宗次ホールです。

クラシック音楽に親しむ人が少しでも増えるよう、ホールでは年間400回の公演を行っています。クラシックのホールを事業として成り立たせるのは非常に難しく、赤字続き。社会貢献としての経営ですが、いつか収支トントンになればいいと思っています。

贅沢には興味がありません。愛用の腕時計は7800円、シャツは980円の既成品です。自分の贅沢のためにどれほどお金を使っても、最後には空しさが残るだけでしょう。しかし助け合いのためにお金を使えば、私たちはともに温かい気持ちになることができ、額面の何倍もの価値を生み出します。

助けを必要としている人のためにお金を使うことは、「究極の贅沢」だと私は思います。助け合いが、世の多くの経営者・資産家の方々への啓蒙になればと強く思います。私のただ1つの夢は、助け合い社会の実現です。

宗次徳二(むねつぐ・とくじ)
カレーハウスCoCo壱番屋創業者/70歳/家族(妻●68歳 長男●38歳)
1948年:石川県生まれ
1967年:愛知県立小牧高校を卒業、不動産会社に就職
1970年:大和ハウス工業名古屋支店に転職
1973年:宅地建物取引業を創業
1974年:名古屋市内に喫茶店を開業
1978年:カレーハウスCoCo壱番屋を創業
2002年:同社の経営から引退
2003年:NPO法人イエロー・エンジェルを設立
2007年:宗次ホールを開業
(構成=大越 裕 撮影=山口典利)
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