がんが治ったのに認知症になることも

高齢者にとってがん検診にはデメリットもある。たとえば、検診でがんの疑いが持たれ、精密検査を行ってもがんが発見されず、結果的に心身ともに負担だけがかかる「偽陽性」や、生命に影響のないがんを発見する「過剰診断」がある。

実際、検診で見つかるのは上皮内がんという、ほとんど進行がんにならないがんが多い。胃や大腸なら内視鏡で簡単に切除できるが、乳腺に上皮内がんが見つかったとき、標準治療では乳房の全切除だ。それくらいの覚悟が持てるだろうか。

高齢者の場合、肉体的に手術に耐えられるかの問題もある。手術後も、80歳以上の高齢者は1週間もベッドにいると寝たきりになることが多い。精神的ダメージが重なると認知症を発症する場合もある。がんの手術に成功しても、認知症になるリスクがあるわけだ。

仮に進行性のがんに進んでも高齢者の場合は寿命が先に尽きることが考えられるし、進行性のがんなら検診を受けなくてもいずれ症状が出てわかる。がん検診を受けるかどうかの目安として、75歳までなら受けてもよいといえるだろう。

早川幸子
ジャーナリスト
マネー誌などで医療、民間保険、社会保障などを手がける。
 

永田 宏
長浜バイオ大学教授
理学修士(筑波大学)、医学博士(東京医科歯科大学)。