「廃線やむなし」が一転、存続決定した感動プロセス

ご多分にもれず、福井は車社会である。1世帯あたりの自動車保有数では全国1位になるほどだ。その状況下で、どのようにして乗客を獲得してきたのだろうか。

積雪による遅延や運休は滅多にないのが「売り」。車両にはアテンダントが同乗する。(写真提供=えちぜん鉄道)

えち鉄が開業したのは2003年。意外にも歴史が短いのは、前身となる鉄道があったからだ。京福電気鉄道の越前本線と三国芦原線である。昭和30年代には隆盛を誇った両線だが、時代の流れとともに乗客数は激減していた。

そんな折、半年で2度の列車衝突事故が起き、これが引き金となって両線の廃止が決まった。そのまま廃線もやむなしという流れもあったが、それを押しとどめたのが住民たちだ。鉄道存続を望む声が行政を動かし、沿線の自治体が出資する第三セクターにより、えちぜん鉄道が誕生したのである。

「開業時から徹底してきたのは第一に安全・安心。そのうえでお客さまに向きあったサービスを積み重ねてきたことが、乗客数の増加につながっているのでしょう」

えちぜん鉄道の営業開発部・佐々木大二郎さんがそう語るように、同社では開業以来、利用者目線でさまざまなサービスを打ち出している。

象徴的なのは「アテンダント」と呼ばれる女性乗務員の起用である。

現在は12名のアテンダントが在籍し、朝と夕方以降を除く昼間帯に制服姿で乗務している。仕事は、乗車券の販売、高齢者の乗降介助、観光案内など。笑顔で乗客に話しかけながら、車内のすみずみに目を配るアテンダントの存在で安心感が増すばかりか、えち鉄に対するシンパシーも高まる。

アテンダント同乗、終電23時台、降雪でも運休しない……

ちなみに、青森の青い森鉄道や石川ののと鉄道など他県でのアテンダント導入も、えち鉄を手本にしているそうである。

一方で、利用のしやすさも評判だ。2年半前にスタートさせたのは、福井鉄道福武線との相互乗り入れである。この福武線も県内の主要鉄道ということで効果も大きく、利用者は年々増加している。

えち鉄の運行ダイヤは、1時間に2本(朝は3本)。ローカル線としては多いほうだろう。しかも福井発の終電は23時台と遅く、仕事帰りに居酒屋に寄っても余裕で電車帰りができる。これは当初、「花金電車」として金曜日の夜のみ運行していたが、乗車率が高く、また利用者からの要望もあって毎日の運行に切り替えたそうだ。

毎週月曜日には福井駅行きの早朝列車「めざましトレイン」も運行している。これも、慌ただしいスケジュールの出張時や、週末に自宅に戻る単身赴任者に好評を得ているという。

こうした取り組みに加えて、「雪に強い鉄道というイメージも強みになっている」と前出の佐々木さんは言う。

「弊社では10cm以上の降雪予報があるときは、翌朝の始発前に除雪に入るよう決めています。降雪量によりますが、ラッセル車やMCモーターカーでの除雪のほか、各駅のポイント部分はスコップでの人力で始発前に除雪をします。そのため、積雪による遅延や運休は滅多になく、普段は自動車や自転車でも『雪道は不安だから』『雪の影響で遅刻すると困るから』と冬の間だけ鉄道に乗りかえる方が多いんです」

今年2月の歴史的な大雪のときはさすがに運休になったが、「えち鉄が止まるんやから、この雪はおおごとや」と口々にささやかれていたそうだ。