極端なまでにリスクを恐れ、現状維持が最優先に

特に、1997年秋以降に深刻化した“金融システム不安”のマグニチュードは大きかった。当時、国内の大手金融機関が相次いで経営破たんに陥った。金融システム不安の発生は、新卒で企業に入社し定年まで勤め上げるという従来の発想が有効ではないとの認識を多くの人々に与えたといえる。

金融システムへの不安が高まると同時に、わが国はデフレ経済(広範な物価が持続的に下落する経済環境)に陥った。デフレは先行きの経済に関する人々の不安心理が強まり、経済全体で需要が低迷することである。

その状況は、経済全体に“羹(あつもの)に懲りてなますを吹く”が如き心理が浸透した状況と例えられる。多くの企業経営者は、バブル崩壊後の資産価格の急落や不良債権問題の深刻化、経済活動の低迷に直面し、極端なまでにリスクテイクに慎重になった。その代わりに、現状維持を優先する心理が強くなった。

経営者のマネジメント能力は重要性を増している

一方、海外では新興国経済が成長し、技術面でのキャッチアップが進んだ。1980年代にわが国の電機メーカーがシェアを席巻した半導体市場では、韓国や台湾の企業がシェアを高めた。2018年上半期の半導体市場のシェアを見ると、トップ15位にランクインしている日本企業は東芝グループ(東芝と日米韓の企業連合に売却された東芝メモリ)だけだ。

結果的にみると、環境の変化に対して、従来型の経営では十分な改革を進め適応することが難しかった。そのため、経営の専門家である“プロ経営者”を社外から招き、変化への適応を進める考えが強くなってきた。その具体的なものが、海外企業の買収などである。また、ライザップのように企業の事業規模が急拡大する中で経営のリスク管理やコンプライアンスなどを強化するためにプロ経営者の知見を活用する企業も増えている。

わが国企業を取り巻く経済環境が大きく変化するに従い、企業は新しい取り組みを進めたり、リスク管理体制を強化するために専門家の考えを取り入れたりすることが重要になる。そのために、経営者のマネジメント能力が重要性を増すことになる。