一度就職すれば生涯安泰という「人生の幸福のモデル」
終身雇用や年功序列の考え方は、わが国の企業経営の特徴といわれてきた。多くの人は高校、あるいは大学を卒業した後に企業に就職し、定年を迎えるまで勤め上げることを念頭においてきた。一度就職すれば生涯安泰という考えといってよい。その意味で、わが国の企業文化の中には、終身雇用制度はわが国経済の“人生の幸福のモデル”だったといえるかもしれない。
その背景にあった要因の一つが、経済成長への期待だろう。第2次世界大戦後の復興期から高度成長期を経て、1980年代後半のバブル経済(株式と不動産の価格が急上昇した経済環境)の絶頂期まで、基本的にわが国の経済は右肩上がりのトレンドを維持してきた。企業の業績も、われわれがもらう賃金も上がるのは普通だった。
特定の企業に入り長く務めることで、人々はその恩恵(昇給、昇進、福利厚生など)を享受できたといえる。ある意味、就職さえすれば積極的にリスクを取り資産を殖やそうとしなくてもよかった時代だった。
1979年には、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と題された書籍が出版され、世界的にわが国の企業経営などへの関心が高まった。1980年代後半はバブル景気が過熱する中で多くの人が「未来永劫、株価と不動産価格は上昇する」と先行きの経済成長を過度に楽観した。
バブル崩壊で崩れたわが国の企業文化
そうした経済環境の中、わが国企業は、組織内部で昇進を重ねた人物の登用によって、経営人材を確保してきた。彼らは、成長戦略の立案などにたけた“経営の専門家”というよりも、部門間の意見調整(根回し)などにたけた“ゼネラリスト型”の人材が多かった。それは、経営はプロに任すべきという米国などの発想とは大きく異なる。
別の視点から見ると、バブルが崩壊するまでのわが国の経済はいい時代だった。企業が積極的に新しい取り組みを進めなくても、相応の業績を達成できるだけの強さがわが国の経済にあった。その環境が、新卒で入社して昇進を重ねたゼネラリスト型の経営者登用を支えた要因の一つと考えられる。
わが国の経済が右肩上がりの状況にある間、終身雇用などの考え方は人々が安心して人生を送るために重要な役割を果たしたと考えられる。
しかし、未来永劫、経済が成長を続けることはありえない。1990年代初頭の資産バブルの崩壊後、わが国経済の幸福のモデルは、従来の機能を発揮しづらくなった。