金融機関や経済全体への影響

「AIの進歩が金融市場や金融取引に何も影響を与えない」ということではありません。AIの活用は、金融取引に関する強力な手助けになり、その結果、市場の機能を向上させるでしょう。

例えば、これまで知られていなかった株価変動のパターンをAIが見いだすことはあり得るでしょう。すでに述べたように、SNSなどのビッグデータの分析から、そのような傾向が検出されるかもしれません。そうなれば、株価をより正確に予測できるようになります。

ただし、そのパターンを利用した取引が直ちに行われてしまうため、超過利益は永続できません。これが先に述べたことです。しかし、市場はこれまでよりも素早く状況変化に反応できることになるわけで、市場の機能は高まるのです。

また、「最適なリスク資産は誰にとっても同じ」といっても、それを計算するためのデータは、時々刻々変化します。したがって、それらの情報を反映させて、最適資産を作り変えていかなければなりません。

AIの活用によって、そうしたことはこれまでより素早く、適切になされるでしょう。そして、これまでより成績がよいインデックス・ファンドができるでしょう。

ただし、この場合に、そのファンドの成績が市場の平均値をつねに上回るわけではありません。市場の平均的な収益率自体が上昇するのです。つまり、特定の投資家の永続的利益にはならないけれども、金融全体の機能は高まるのです。

マーケットの機能が向上することによって、経済全体の資源配分がより適切に行われるようになり、経済成長が促進されると期待されます。

自動取引が行われることによって、マーケットの不安定性が増してしまう危険もあります。

なお、「AIを用いた投資信託やファンドだから、収益が高い」というような宣伝文句を用いたセールスが出てくるかもしれませんが、そうしたものには注意することが必要です。しかし、そのような宣伝に惑わされて損失を被る人が出てくる危険があります。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『入門 AIと金融の未来』『入門 ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)など。
(写真=iStock.com)
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