「予測アルゴリズム」という画期的な統治の方法
広大な領土に多大な人口を擁する中国では、むかしから統治者は「いかに秩序をもたらすか」に頭を悩ませてきた。長い年月の中で、恐怖による圧政、寛容による仁政、教育による統制などさまざまな統治が試みられてきたが、ここにきて、ついに統治者は画期的な方法を手に入れつつあるようだ。その方法とは、「予測アルゴリズム」という情報テクノロジーのことである。
中国では、長年にわたり食品生産や医薬品製造の安全性は保たれておらず、偽装や偽造、詐欺、脱税に官僚の腐敗、学術上の不正も横行し、治安当局の取り締まりも十分な効果を発揮してはいなかった。そのため、企業や消費者の取引コスト、経済秩序に関する行政のコストも大きく、人びとの規範意識を高めることは切迫した課題であった。
そうした中で、新たな統治手法として注目されるのが「予測アルゴリズム」だ。これは、オンライン上の購買や閲覧・行動の履歴といったパーソナルデータや、企業の信用取引データなど、いわゆる「ビッグデータ」を分析し、対象となる人物や企業の動向を予測する情報テクノロジーだ。中国政府は、いま、こうした技術を統治能力の改善に役立てようとしている。
国民や企業がどの程度信用できるかを査定するシステム
2014年に中国国務院が発表した「社会信用システム建設計画綱要(2014~2020年)」や、中国共産党第13次5カ年計画(2016-2020年)の草案によると、2020年までに中国政府は、国家規模での情報蓄積体制を整備し、それを活用する「社会信用システム」なるものを構築するという。
なんでも政府が発表した資料によれば、「社会信用システム」は、蓄積されたさまざまなデータを基に、国民や企業がどの程度信用できるかを査定する、社会信用度の格付けシステムであるらしい。
「社会信用システム」は、いまだ全貌は明らかにされていない。しかし、それは、電子商取引の最大手であるアリババ・グループ・ホールディングや、ソーシャルメディア大手のテンセント・クレジット・ブリューといった中国の民間企業が、かねて取り組んできた「与信管理サービス」に関わる技術や知見を取り込む公算が高い。
というのも、中国人民銀行は、2015年にアリババ・グループ傘下の芝麻信用など、民間企業8社に信用調査機関としてのパイロット展開をいったん許可したのだが、2018年に信用調査機関としての許可書を正式に交付したのは、新設された百行征信用(略称・信聯)だけだったからだ。