数学と音楽は密接につながっている

数学と音楽――。まったく異質に思えるかもしれないが、実はこの2つには密接なつながりがある。

私は数学塾を主宰する傍ら、プロの指揮者としても活動している。5歳の頃からピアノを始め、音楽の道を進むことを考えたこともある。東大理学部入学後は、大学の先輩とともに東京大学歌劇団を創設し、第2代の総監督を務めた。さらには大学院を中退し、オーストリアのウィーンに留学した。

そのウィーンでよく聞いたのは、「彼(彼女)は論理的だからいいよね」という言葉だ。日本では、音楽はヒラメキやセンスが重視されがちだが、欧米では数学でいうところの「logical(論理的)」であることが称賛の対象となる。

そうした土壌からクラシック音楽は生まれた。モーツァルトやベートーベンら天才作曲家が遺した名曲のスコア(楽譜)を読み解くとき、私はそこにある「論理」に感動する。音楽における「論理」とは、「和声」(ハーモニー)である。より具体的にいうと指揮者はスコアのなかの「和声の進行」(カデンツ)を読んでいるのだ。

クラシックは、それ以外の音楽と比べ、テンポが一定ではないという特徴がある。小節単位や拍単位でテンポが目まぐるしく変わる。したがって指揮者の重要な役割は、どのようなテンポで音楽をつくっていくかで、その際に大事なヒントになるのがカデンツなのだ。

少し専門的になるが、和音と和音記号(I、IIなど)について簡単に説明しておこう。図の楽譜はハ長調の和音と和音記号だ。和音はそれぞれが持つ機能(役割)によって分類される。特に重要なのが、トニカ(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)の3種類。その調のなかでトニカは中心的な役割を果たし、「解放」「解決」「弛緩」といった印象を与える。ハ長調ではI(ド・ミ・ソ)が代表格。