これを用いてアパレル業界の魅力度を検討すると、参入障壁は低く、価格競争で血みどろの争いが続いており、代替品の脅威は大きく、買い手である消費者に対して強気の価格設定を行える状況になく、供給業者に対してもそれほど強い交渉力を持っていない。
結論として、現在のアパレル業界の魅力度は低いと言えよう。
そんな業界構造の中で、ユニクロは「オペレーション効率」を実現している。製造面では早くから中国に進出して高い品質管理を実現し、販売面では単品管理の導入で在庫管理の効率性も高めた。
一方、魅力のない業界においては重要な「戦略的ポジショニング」の確立には、(1)ユニークなことをやる、(2)やらないことを選択するという2つの取り組みを実施している。
ユニクロのユニークさは、ベーシックで品質が良く、消費者が信頼できる服を気軽に手に取れる値段で提供したことにあり、その背後にはSPA(製造型小売業)の仕組みがある。
SPAは他の企業も取り組んでいるが、ユニクロと他社との違いは常にイノベーションを起こしているか否かにある。ヒートテックを例にとれば、昨年に比べ品質の向上が著しく、ニューヨーク店を見ても、商品のカラーバリエーションは今や他社を上回る勢いである。
他方でユニクロは徐々にジャケット等に守備範囲を広げているが、「ベーシックなアパレル」の枠からは外に出ない。
ところが多くの企業はユニクロのように適切な戦略を採ることができていない。むしろ成長のためにあれこれ手を出してユニークさを失い、結局うまくいかないという「成長の罠」に陥る事態もよく見られる。
ファミリーエンターテインメントに特化していた米ディズニーが、成長のために本業と関係ないM&Aを1990年代に連発したのはその一例だろう。
ポーターの理論はそうした成長の罠を戒め、業界平均を上回る持続的な収益性の達成を念頭に置き、業界内でユニークなポジションを確立することを肝に銘じて戦略を展開せよと説いているのである。