盲点になりがちな法務関連のチェック
パーソナライゼーションに乗り出すことを検討している企業に対して、ハッチンソン氏は次のようにアドバイスする。
一つ目が「小さく始めよ」である。
「マーケティング担当者やブランドマネージャーなどだけでなく、データサイエンティストやエンジニアなど、データとテクノロジーのエキスパートを含む少数精鋭のチームを組み、まずは開発に着手します。それを小規模にリリースし、実際、顧客に使ってもらいながら、改善・改良を加えて大きく育てていくのです。
最初から完璧を求めると、プログラムの開発に何年もかかってしまい、結局は満足のいかないものができてしまいます」(ハッチンソン氏)。
デジタルの分野においては何ごとも小さく産んで、大きく育てていくことが成功の秘訣だ。
もう一つ、重要だが盲点になりがちなのが、法務的観点からのチェックである。従来のマーケティングならば、1種類のプロモーションをすべての顧客に適用するため、その内容を一度法務部に確認し、承認をとってしまえば事が済んだ。だが、パーソナライゼーションでは、極端な場合、100人の顧客がいれば100通りのプロモーションが存在することになると言う。その場合、「1つひとつのクオリティチェックを厳密にできるかという点も、課題になってきます」(ハッチンソン氏)。
企業が収集する個人データに関しては、EU一般データ保護規則(General Data protection Regulation:GDPR)が導入され、日本でも個人情報保護への関心が高まっている。「消費者はより個人に寄り添った便利なサービス、つまりパーソナライゼーションを望む一方で、収集した個人データを第三者に販売するようなことは企業にしてほしくないと思っています」(ハッチンソン氏)。
企業は、矛盾し相反する二つのトレンドに向き合っていかなくてはならない。個人情報が無制限に収集される状況は望ましいことではなく、法律がある種の番犬的な役割を担って取り締まるのも必要なことだという。ただし、「規制が厳しくなったとしても、個人がより快適なサービスを望む限り、パーソナライズ化の流れは止まらない」とハッチンソン氏は、予想している。
ジャーナリスト
1970年福島県生まれ。大手経済新聞記者を経てフリーに。経済・経営誌や女性誌を中心に、インタビューやルポルタージュ、マネジメントに関する記事などを執筆。近著に『メディア・モンスター:誰が黒川紀章を殺したのか?』(草思社)がある。