スターバックスが昨秋から、お客にスマートフォン向けアプリの利用を呼びかけている。これまで展開していたのは「プリペイドカード」だったが、そこにアプリによるポイント制度を加えた。その狙いはなにか。リアル店舗で進む「デジタル化」の本質とは――。
米コーヒーチェーンのスターバックスもパーソナライゼーションに踏み出した。スターバックスコーヒージャパンも昨年9月、日本国内向けにパーソナライゼーションが可能な「スターバックス リワード」というプログラムを開始した。写真はスターバックスコーヒージャパンのHPより。

ROIがゼロから800%のブレがある現実

デジタル広告市場は一貫して拡大を続けているが、広告が目に触れる機会が多いほど商品やサービスが売れるわけではないだろう。そこで注目されている最新のマーケティング手法が、「パーソナライゼーション」だ。

マーケティングの本質は、消費者に働きかけて何らかの行動をとってもらう行動変容にある。人間の行動を変えるには、それに合った「ツボ」を押さなくてはならない。適切な相手に、適切なタイミングで、適切なツボを押し、消費行動を促すこと──。それがすなわち「パーソナライゼーション」である。

実は、個人の興味・関心・行動に合わせてサービスを最適化しようという考え方そのものは、以前からあった。BCG(ボストン コンサルティング グループ)のシニア・パートナー&マネージング・ディレクターで、マーケティング分野の経験が豊富なリチャード・ハッチンソン氏がコンサルタントとして働き始めた25年前、それは「セグメント・オブ・ワン(一人ずつのセグメント)」と呼ばれていた。

「ただし、それを実行できる人は誰もいませんでした。技術がマーケティングの理論に追いついていなかったからです」(同氏)。

何十年にもわたりマーケティングといえばセグメントをする──富裕層か低所得層か、どの地域に住んでいるか、消費パターンはどうかなどを区分けし、区分けした集団に向けて広告を打つこと──だった。それが一気に顧客を中心に据えた形へと変化しようとしている。

では、25年前と今日では、いったい何が変わったのだろうか。

「圧倒的に違うのは、個人のデータを収集できるデバイスの多様化と、情報分析技術の発達でしょう。テクノロジーを使えば、企業は個人の属性を正確に把握できるばかりではなく、リアルタイムの興味や関心、行動を把握しながら、それに合ったモノやサービスを提供できます。理論はあっても技術が追いつかないために実践することが難しかったマーケティングの手法が、近年、ようやく実現可能なレベルになってきたということです」(ハッチンソン氏)。