一歩踏み出したスターバックスのケース
実際、実店舗が中心であるにもかかわらず、このようなきめ細かなマーケティングを展開することで、より効率的に購買へとつなげていこうと、パーソナライゼーションに踏み出した企業もある。筆者が注目しているのは、米コーヒーチェーンのスターバックスだ。
スターバックスコーヒージャパンは昨年9月、日本国内向けに、来店頻度の高い顧客向けの「スターバックス リワード」というプログラムをリリースした。これは一種のポイント制度で、以前からあったプリペイドカードにモバイルアプリケーションを組み合わせることで、パーソナライゼーションを可能にしている。
利用者はまず、専用のプリペイドカード「スターバックスカード」を店舗で入手し、ウェブ上で会員登録を済ませた後、カードを登録する。その上で公式のモバイルアプリケーションをダウンロード。カードと公式アプリを使って商品を購入すると、金額ごとに「スター」と呼ばれるポイントが付く仕組みだ。アプリにクレジットカードを登録すれば、自動的にプリペイドカードに入金することもできる。
これにより会員情報と購買行動が紐付けられ、一定数のスターを集めると、ユーザーは新商品の先行購入や限定商品の購入、イベントの先行予約などの特典を得られる。一方のスターバックス側も、このプログラムを通じて得られたデータを活用・分析することで、より個々の顧客に寄り添ったマーケティングを展開することが可能になる。
パーソナライゼーションという観点から見ると、スターバックスのサービスは四つの大きな要素で構成されている。
一つはプリペイドカードと公式アプリの組み合わせにより、購買に至るまでの個々の行動をより詳細に把握し、「カスタマー・ジャーニー」(顧客の消費・購買行動)をつかんだ点。二つ目は積極的かつ戦略的にデータを収集している点。三つ目がテクノロジーを使いこなしているという点。具体的にはAI(人工知能)による機械学習や高度な分析ツールの活用に加え、それを適切なチャネルに接続し、顧客に必要な商品やサービスをレコメンド(おすすめ)している。
パーソナライゼーションを展開するにあたり、最も重要で難しい課題の一つが、顧客とつながる際のチャネルの選択である。電子メールか、モバイルアプリケーションか、あるいは販売のスタッフを通じて店頭で直接つながるべきか──。
さまざまな選択肢が考えられるなか、適切なチャネルを選び、それに合わせて必要なプログラムを開発している点が、スタバのケースの四つ目の要素である。