トップセールス賞を11期連続で受賞できたきっかけの一言

【田原】債券を買ってもらうには、何かノウハウがあるんですか。

【表】債券の条件は変わらないので、基本的にどこから買っても同じです。だとすると、自分という人を買ってもらうしかない。償還まで20~30年という債券もあるので、長期にわたって信頼してもらうことが大事です。

ミライセルフ代表取締役 表 孝憲氏

【田原】どうすれば信頼してもらえるんだろう?

【表】最初は「知識」だと思っていました。お客様は1年目の新人の話なんて聞いてくれません。しかし、フレッシュな情報、たとえば今年新しく出てきた商品の情報を誰よりも早く伝えると、「この小僧、やるな」と耳を傾けてくれるようになります。ただ、それだけでは限界がありましたね。結局、ある程度のところで成績は頭打ちになりました。

【田原】どうやって打開したのですか。

【表】あるお客様から「もっと懐に飛び込んで来い」と言われたのがきっかけでした。そこで朝5時までお酒につき合って、そのまま吐きながら出社したら、注文をくれた。そういうものかと(笑)。

【田原】飛び込むというのは、酒を飲むこと? 案外、古いよね。

【表】何でもいいんだと思います。結局、お客様をどれだけ思っているかどうか。ほかにも私がバングラデシュへの旅行中に、お客様の商品価格が動いていたので電話したことがありました。それもとても喜んでくださいました。

【田原】ほお。ところでバングラデシュへは何をしに行ったんですか。

【表】資本主義の権化の外資系証券会社にいたので、その対極に位置するNPOの活動に興味がありました。それでマイクロファイナンスなどを行っているバングラデシュのNPOに研修を受けに行きました。

【田原】2013年6月に会社をお辞めになる。ここで起業ですか。

【表】いや、僕はかなりビビりなので、起業家より投資家になるつもりでした。その勉強をするために、退職後に渡米してカリフォルニア大学バークレーのビジネススクールに留学。ビジネスの基礎から、起業論や組織心理学を学びました。そこでさまざまな起業家と出会ううちにインスパイアされて路線を変更。MBAが2年で終わって、ミライセルフを立ち上げました。

2000人超の面接で体感した「人」に頼った採用活動

【田原】ミライセルフはHRテック、つまり「人事×AI」の会社ですね。そもそもどうして人材分野に興味を持ったんですか。

【表】モルガン・スタンレー時代に採用の面接官として週末の多くを費やしていました。2000人以上と会って選考をしていたのですが、すごくいいと思って採用した人が半年で辞めてしまったことがありました。彼は学生時代に塾の先生をやっていて、そこに戻りたいといって退職した。それを見抜けなかったことで、彼は遠回りすることになったし、会社としても採用費用を損する形になった。採用する前に本当に会社に合う人材かどうかがわかればいいのにと感じたことが、採用に興味を持ったきっかけでした。