一匹狼の個性を生かすチームマネジメント術

ところが、トレイルランニングはもともとチームスポーツではなく、ソロスポーツだということもあって、集まってきたのは、一匹狼タイプの人が多かった。それぞれが一国一城の主で、必ずしもチームプレイを得意としない人も含まれていたわけです。

『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』(鏑木 毅著・実務教育出版刊)

そうすると、誰もが旗振り役になりたがる。意見もバラバラだし、全員が最高責任者になってしまうのです。

しかし、もともと意見が違うところに、全員がジャッジに回ってしまうと、お互いに譲らず、いつまでも結論は出ません。いろいろな意見があるからこそ、最終的にリーダーが一人で決断しないと、チームをまとめることができないのです。

もともと人を引っ張るタイプではない僕にとって、最後は自分でジャッジしなければいけないというのは、ものすごくストレスが溜まる仕事でした。毎回プレッシャーとストレスにさらされ、胃が痛む思いをしているので、日々重い決断をしている政治家や企業のトップの方はすごいなと、素直にリスペクトしています。

40歳でサラリーマンを辞めた僕には、管理職の経験はありません。でも、この競技の先駆者としてみんなに夢やビジョンを説いていく中で、いつのまにかそういう立場に立たされていて、いまでは、日本トレイルランナーズ協会(JTRA)という競技団体の会長も引き受けています。

実行委員長というリーダーになった以上、決断から逃げないこと、どんなに苦しくても、みんなから望まれてそういう立場に立ったことを意気に感じて、意思決定するしかありません。

ただ、大会の実行委員長や協会の会長をしていて、わかったこともあります。トレイルランナーはみんな個性が強いので、その個性をコントロールするというよりは、調整役に徹したほうがうまくいくということです。

リーダーがグイグイ引っ張るのではなく、誰に対しても壁をつくらず、同じように接することで、それぞれの個性を生かしながらバランスをとる。少なくとも、僕にはそういうリーダーシップのほうが向いています。それは、どちらも任意参加のボランティア型の組織ということも関係しているかもしれません。

刺々しい言葉が会議参加者に刺さらない方法

ボランティア型の組織で一番よくないのは、否定的な思考の人の存在です。ネガティブな発言ばかりする人がいると、それがまわりに伝染して、「そんなに言うなら、こんなのやめればいいじゃん」と放り出したくなる。会社なら、上司がひと言注意すればすむかもしれませんが、全員が対等な関係で参加している組織だと、そのあたりのさじ加減が難しいのです。

僕が気をつけているのは、棘のある言葉が出たら、それを和らげるような言葉をかぶせて、棘がみんなに刺さらないようにすることです。

たとえば、ちょっと苦笑いしながら「またそんなこと言って」と少し茶化すように言えば、そこでみんな和みます。「そういう言い方はダメでしょ」と高圧的に言っても雰囲気が悪くなるだけで、誰のためにもならないので、その場でうまく解消するようなひと言を言うようにしています。