「自分の命の使い道」を考えた

つらい刑務所での日々の中、慰みは読書でした。そこで出合った本が、五木寛之氏の『親鸞』です。それまでは自分が金持ちになることばかりを考えていた私に、社会の底辺にいるような人たちを救わんとする生き方を教えてくれた一冊でした。

それからは、時間を見つけては「自分の命の使い道」について考えました。企業として利益を出し、従業員も取引先もお客様も喜び、幸せになっていただける事業とは何だろう。そんなことを考えてワクワクしている自分を感じ、「これこそが本当の自分なのだ」と気づきました。

念願の出所を果たした後、保護司の先生に「これから何をしたいのか」と聞かれ「CSRをベースにした事業をしたい」と答えました。そうして、保護司の先生から提案を受け、ともに立ち上げたのが、再犯のない社会実現を目指す株式会社ヒューマン・ハーバーだったのです。

再犯をなくす仕組みをつくる

ヒューマン・ハーバーは、スクラップ業を行う会社です。スクラップ業で利益を出し、服役経験者に就職から教育、住まいの支援をして、再犯のない社会を実現することをテーマにしています。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Natnan Srisuwan)

具体的には、刑務所をまわり、就職希望者の面接を行います。その時に重要視するのは「まっとうな人生を送りたい」という意思がどのくらいはっきりしているかです。仮釈放されるために、ただ単に「就職先が決まればいい」と思っている本末転倒な受刑者も数多くいるのが現状。彼らの面接は必然的に厳しくせざるをえず、執拗な質問が多くなると、受刑者と対立関係になることも少なくありません。しかし、そのくらいこちらも真剣だということを分かってもらうためには、避けて通れないことです。

採用された人には住居と仕事、そして才能を発揮するための教育を受ける機会を与えます。中には義務教育をきちんと受けていない人もいるのです。採用期間は1年間という期間限定。その間に、自分が本当にやりたいことを見つけます。こちらはその目標に向かって努力する人を本人に合った形で応援し、社会へと巣立たせるのです。

本気でやり直したい人に対して優しく手を差し伸べる一方で、ルールを守れなければすぐに刑務所へ戻すとも伝えます。環境は整えた、あとはあなたのやる気次第です、というわけです。元受刑者にとって社会復帰をするのは容易なことではありません。新しい環境に慣れるまでにはさまざまなストレスがかかる。しかし、それを乗り越えて、仮釈放から出所を経て、新しい生活の扉を開き、前に進むことが必要なのです。