驚くことにそうした動画を、石塚さんは外注せずにすべて自分でつくっている。組み入れるイメージ画像の撮影なども自前でこなすという。「そのほうがコストも時間もかからないし、自分たちのイメージどおりの資料がつくれるからです」(石塚さん)。その動画制作のスキルは独学で身に付けたそうだ。

写真=iStock.com/Asurobson

もちろん動画だけではない。石塚さんのパワポ活用の工夫は多岐にわたっている。最初のつかみも重要で、心に刺さるキャッチコピーを練ってプレゼンする建物のイメージを一言で伝える。「M市へのプレゼンでは図書館に介護施設を併設したことで、『本でつながる交流の広場』というキーコンセプトを考えました。そして、冒頭で高齢者と幼児が一緒に遊んでいる動画を背景に入れることで、聞き手の印象に残りやすくするわけです」と石塚さんは話す。

イメージどおりで、リピートも増加

また、聞き手にアピールするための動画を組み込んだシートと、説明用データを詳細に盛り込んだシートを分ける。後者では色使いに気を配る。「環境を重視する建物であれば、文字や図表にも“緑”を多用して、プレゼン内容のイメージ全体に統一感を持たせます。そして、個々のシートのなかに強調したい文字や図表があれば、緑の補色に近い“オレンジ”を使って少しでも目立つようにしています」と石塚さん。

パワポ資料には建物の設計図も入れるのだが、無味乾燥なものではなく、机やイスなどの備品を描き込むことで、見た人がイメージしやすいように努めている。また、建物の外には線画を使って手描きした木々や植物を配する。まさに“神は細部に宿る”を実践しているわけだ。

実は、動画のメリットはプレゼン以外にもある。「実施設計を現地の事業所に引き継ぐケースが多いのですが、立体動画があると、事業所の設計担当者にも建物のイメージが正確に伝わるのです」と石塚さんは話す。その結果、「プレゼンのときのイメージどおりに建物ができた」と施主の満足度も高く、リピートの受注も増えるそうだ。

時間もコストもかけられる高額案件のプレゼンであれば、ぜひ見習ってみたい。