転職のきっかけは他社とのランチ

さらにグラノヴェッターは「弱い紐帯によって伝達される情報は価値が高い」とも述べました。考えてみれば当たり前で、弱い紐帯の関係性であるにもかかわらず、わざわざ連絡をとるわけですから、その情報は重要なものになるはずです。

先の例でいえば、兄弟の同級生という弱い紐帯の関係にある人に連絡をとるのは、A社がどうしてもB社とコンタクトしたいという背景があるからです。そこでA社からの情報は当然、価値の高いものになるでしょう。またB社からしても、その情報は自社内にはないものになるわけで、同じく価値の高いものになることが多いといえるのではないでしょうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz)

私自身の経験を振り返っても、グラノヴェッターの議論の正しさを感じます。私が13年勤めた日本興業銀行を離れ、NTTドコモに転職をしたきっかけは、他の銀行の方とランチをしていたとき、たまたま「ドコモが公募をしているらしいですよ」という話を聞いたからでした。

当時、私は投資銀行グループのプロジェクトファイナンス部で、海外の発電所建設やパイプライン、LNG(液化天然ガス)開発などのプロジェクト金融を担当していて、他行の方と情報交換のためにときどきランチをしていました。そのときは転職したいと強くは考えていませんでしたが、すでにプロジェクトファイナンスを7年ほど担当していたため、そろそろ金融だけでなく、「次世代のコメ」と評された情報通信事業についても専門性をもちたい、という思いがありました。

そんなときに他行の方にNTTドコモの公募情報を教えていただいた私はすぐ新聞の求人広告を探し、応募したのです。800人が応募して採用者は5人だったとのこと。そのうちの1人に入れたのは、ラッキーだったといえるでしょう。

手ごろかつ効率的に関係を深められる

「弱い紐帯」を構築するために大切となるのは、自社では同じ部署ではない他部署の人、さらには他社の人との交流を積極的に行うべき、ということでしょう。いちばん手っ取り早いのは、私のように他社の方とランチをすることです。相手と関係を深める方法論がさまざまあるなかで、ランチは手ごろかつ効率的です。たとえ面識がなかったとしても、食事の席では人は饒舌になります。食事中に出る脳内物質によって幸福感を感じられるのです。素敵なお店で美味しいご飯を食べれば、その幸福感はさらに増すことでしょう。

ランチよりもディナーのほうがよい、と思う方もいるかもしれませんが、夜はお酒が入る場合も多いでしょうから、自分の感情をコントロールできないことが出てくるかもしれません。パワーブレックファーストも悪くはありませんが、自宅が遠い方、目上の方にはなかなかお願いしづらいものです。

ランチはあなたが「ブリッジ」になるための最強の方法論でもあります。ビジネスにおけるブリッジになるためには「ビジネス仲人」になる必要がありますが、その場をランチでセッティングするのです。私はこれを「アライアンスランチ」と呼んでいます。そうしたランチの力について、『世界のトップスクールで教えられている 最強の人脈術』ではさらに詳細な説明を行なっています。

弱い紐帯の関係をつくるためには、SNSの活用も有効です。海外では、仕事関係ではリンクトイン、プライベートの友人ではフェイスブック、と区分けしている人が多いようですが、日本でメジャーなのはやはりフェイスブックやラインでしょう。

繰り返しになりますが、こうした世界標準のネットワーク理論がまだ日本では十分に活用されているとはいえません。しかしある会社に在籍しているとき、その社内で力を発揮し、他社に転職しようとするときにも、定年を迎えてから先40年という長いもう一つの人生を生きることを考えても、この国に「資産としての人脈」という考え方が定着し、日本人がより豊かな生活を送れるようになることを、心から私は願っています。

平野 敦士 カール(ひらの・あつし・かーる)
経営コンサルタント
アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行、NTTドコモiモード企画部担当部長をへて、現職。楽天オークション元取締役、タワーレコード元取締役、ドコモ・ドットコム元取締役。2007年、ハーバード・ビジネススクールのアンドレイ・ハギウ准教授とコンサルティングや研修を行う株式会社ネットストラテジーを創業、代表取締役社長を務める。社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。ハーバード・ビジネススクール、早稲田大学ビジネススクールほか海外での講演多数。
(写真=iStock.com)
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