「弱いつながり」がいい理由

ネットワーク理論のなかでも最も有名なものが、1973年、アメリカの社会学者マーク・S・グラノヴェッターが提起した「弱い紐帯の強さ(“The strength of weak ties”)」という考え方です。「紐帯」とは簡単にいえば、「つながり」という意味です。

平野敦士カール『世界のトップスクールだけで教えられている 最強の人脈術』(KADOKAWA)

一般的には、より豊かな「人脈」を手にしている人は、いろいろな人との「強いつながり」をもっている、というイメージがあるのではないでしょうか。しかし、じつは科学的に見たとき、その考え方は正しくありません。むしろ強いつながりをもっている人よりも、弱いつながりを多くもっている人のほうが、自らの人脈を「資産」にできるのです。

この「弱い紐帯の強さ」は、企業(雇用者)と社員(被雇用者)のマッチングメカニズムを明らかにするために行われた実証研究から導かれた仮説です。わかりやすい事例でいえば、あなたが転職を考えているとき、どんな人に相談するでしょうか。おそらく身近な信頼できる友人や家族、仲のよい先輩などかもしれませんが、現実には、いつも身近にいて、つねに情報交換をしている自分と同じような環境にいる人からは、有用な情報を得にくいものです。

むしろ、「いつもはそれほど密接につながっていない知人」のほうが、はるかに転職に有用な情報を提供してくれる、ということが、簡単にいえば、グラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ」の研究成果でした。

人脈ネットワーク同士をつなげる「ブリッジ」

実際の調査は1970年、アメリカのボストン市郊外に住む282人のホワイトカラーの男性を対象にして行われました。その結果、56%の人が人脈ネットワークを用いて職を見つけることに成功しましたが、「弱い人脈ネットワーク」から得た情報で転職した人のほうが、「強い人脈ネットワーク」から情報を得て転職した人よりも、転職後の満足度が高いことがわかったのです。

この事実からグラノヴェッターは、「強い人脈ネットワーク内の情報は既知のものであることが多く、それに対して弱い人脈ネットワークから得られる情報は、未知でかつ、重要なものだからである」という仮説を構築しました。

さらにグラノヴェッターは、弱い紐帯は強い人脈ネットワーク同士をつなげる「橋(ブリッジ)」としても機能するため、情報が伝播するうえで重要な役割を果たす、としました。これも例で説明してみましょう。

あなたはA社に勤めています。A社はどうしても戦略上、B社につながりをもちたいと思っています。しかし残念ながら、A社の社員でB社の社員を知っている人が見当たりません。ところが偶然にも、B社の社員があなたの兄弟と同級生だったので面識がありました。そうなると、A社がB社とつながりをもつためには、あなただけがブリッジとして機能できることになります。B社の社員とあなたとの関係は兄弟の同級生という弱いものですが、それにもかかわらず、A社とB社はつながることができた。これがブリッジの力です。