シリコンバレーにスタートアップが集まる理由
ただ、そうした取り組みによって渋谷がテクノロジー産業の中心になると断言することはできない。重要なことは、状況が変わっても渋谷がIT企業などから事業の場として選ばれていくか否かだ。
それを考えるキーワードが“集積地”である。集積地とは、何かが集まって積み重なる場所のことをいう。米国のシリコンバレーがITの集積地となってきた背景には、様々な要素がある。世界最先端レベルの研究拠点(スタンフォード大学など)と、金融(ベンチャーキャピタル)の存在は、スタートアップ企業の成長を支えるために欠かせない要素だ。人々の“アニマルスピリット(成功などを求める血気)”の違いもある。
ITを中心に最先端のテクノロジーの実用化を通して成長を目指すことが、シリコンバレーの文化=そこに暮らす人々の生き方になっているといっても過言ではない。それは、経済環境などが変化しても脈々と受け継がれてきたものだ。今後も、その価値観が次世代に受け継がれていくのだろう。
渋谷が“IT集積地”になるために必要なもの
このように考えると、ビットバレー再興を通して渋谷が国際的に知名度の高いIT集積地となるには、さらなる取り組みが必要だろう。理論的に考えれば、ベンチャーキャピタルなど金融面から起業を支援することは欠かせない。加えて、世界的な研究者や研究・教育機関を招くことも検討されるべきだろう。政府やビットバレー再興を目指す企業が国内の大学などとの連携を強化していくことも考えられる。
東急や国内IT企業がビットバレーの再興を目指すには、それくらいの発想があってよい。スタートアップ支援のための優遇税制を自治体や政府と協議することも考えられる。企業と政府や自治体の連携は不可欠だ。その結果として渋谷で海外のITスタートアップ企業がビジネスを行うようになれば、「ヒト」「モノ(アイデア含む)」「カネ」がそこに集まるようになるだろう。東急やIT企業がダイナミックな発想でイノベーションを目指すことを期待したい。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。