「君がカール大帝ならどういう政策を行うか?」

大学のように単位制になっていて、履修する科目によって時間割が異なるが、多くの生徒が1日2、3コマの授業(1コマ40分)を受けたら、それ以外は自由時間で思い思いに過ごすという。これだけ自由時間が長いのは、履修する科目数が少ないためだ。

日本の高校では一般的に「国語」「数学」「英語」「理科」「地理・歴史」「公民」「保健体育」「音楽」「美術」「家庭」「情報」など、10科目以上を履修しなくてはいけない。だから、毎日6時間授業をびっしり受けることになる。

それに対して、同校ではどの学年も3~6科目取るだけだったという。

「受験制度の違いもありますが、科目数の少なさには驚きました(※1)。しかし、その代わり、一つひとつの授業で扱われる内容はハイレベルで専門的です。だから自由時間は確かにいっぱいあるのですが、皆、自習などの勉強にあてていました」(羽田さん)

※1:イギリスでは16歳で義務教育が終了し、その段階でGCSE(General Certificate of Secondary Education)という義務教育修了試験を受ける。義務教育終了後は、大学進学希望者は「シックスフォーム」と呼ばれる高等教育進学準備教育課程に進み、3科目程に絞り込んだ選択科目について試験を受ける。GCSEとシックスフォームの成績によって大学の合否が決まる。

たとえば、「中世史」の授業では、「カール大帝(※2)はどのような性格の人物か? 彼が行った政策を支持するか否か? カール大帝の立場ならどういう政策を行うか?」などについて議論したという。

※2:8世紀後半から9世紀にかけてフランク王国を統治した国王。領土は西ヨーロッパ全域に及んだことから、「ヨーロッパの父」と言われている。カール大帝に関する授業が行われたのは、イギリスがEU離脱で揺れる最中のことだった。

西ヨーロッパ世界成立の立役者であるカール大帝(742-814)。トランプのハートのキングのモデルだといわれる。(写真=iStock.com/eldadcarin)

「先生がホワイトボードに線を引いて目盛りを振り、彼に対する評価を書くように言われました。それぞれ自分の評価を書いたうえで、理由を説明し、議論します。授業の前には大量の課題の文献が与えられるのですが、同じものを読んでいても意見が分かれるのが興味深かったです」(易さん)

なんと社会経験ゼロの10代の高校生に、統治者・為政者としての視点を求めているのだ。

あなたがカール大帝の立場なら、どうするか? 日本の学校の授業で、ある政策がその後に与えた影響を考察することはあるが、あなたならどうするかと問われることはほとんどないだろう。この目線の高さこそが、イートン校の特徴なのだろうか。

「欧州の百年戦争の頃、日本では何が起こっていたの?」

掘り下げた議論をしながら進められるイートン校の授業。海陽学園の二人は、最初は議論についていくのは大変だったそうだが、そこで劣等感を抱くようなことはまったくなかったそうだ。なぜなら、先生や生徒たちが聞き上手で、意見に耳を傾けてくれたからだという。

「たとえば、百年戦争で最初はイギリス優勢だったが、フランスが逆転した理由について話し合っていた時、僕が発言できずにいると『当時、日本では何が起こっていたの?』と聞いてくれました」と羽田さん。

フランスとイギリスが百年戦争をしていた頃の日本はどうだったか? そんなことを一度も考えたことのなかった羽田さんはすぐには返答できなかった。だが……。

「イートン校では、授業中もPCやスマホを使ってネット検索することが許されています。だから、調べて答えました。百年戦争の頃、日本は足利氏が将軍を務めた室町時代でした。百年戦争は最終的に鉄砲や大砲の使用したことにより、フランス軍が勝利します。こうした戦い方の分岐点が、日本では織田信長が鉄砲を使って武田軍に勝利した『長篠の戦い』で起こったことなどを思い出して年代を調べると、約100年遅いことがわかりました。このようにヨーロッパと日本を比較して議論に参加できたことは、とてもいい経験になりました」(羽田さん)