イートン校は教員1人が生徒8人を見る手厚い指導体制
一方、易さんは自分と同世代のイートン校の生徒を次のように評価する。
「イートン校の生徒たちはしっかり自分の主張をしながらも、立場や考え方の違う人の意見を聞いて、よいところを取り入れるなど、皆を議論に巻き込んでまとめるのが非常にうまいのが印象的でした。これはイートン校の教育のたまものだと思います。というのも、入学したばかりの中学生の授業を見せてもらうと、自己主張が強くて、まだ人の意見を聞くことが上手ではありませんでした。でも、先生方が生徒一人ひとりを尊重し、耳を傾ける授業をすることで中学生も次第に成長していくのだと感じました」
イートン校では、教師と生徒の関係は「教える人」「教わる人」という上下関係ではなく、互いに高め合う相手として尊重される。それはチューター制度(個別指導)でも感じるという。
「生徒に対して、個人指導を行う担任の先生がつくのですが、その先生は週に一度は自宅に招いてくれて、そこでいろんな話をしました。歴史の話や食料問題など、対等に話をきいてくださったのがうれしかったです」(羽田さん)
こうした会話の中で、生徒が興味を持ったことがあれば積極的に支援していく。同校では、単純計算で1人の教員が8人の生徒を見る指導体制。日本の学校ではありえない手厚さだろう。
「イートン校の諸君、君達は命令するために生まれてきた」
「プレジデントFamily2018夏号」の特集「トップエリートの夏休み」内で3人のイートン校の生徒にメール取材した。
ある生徒は障害者を科学技術で支援する国際会議に参加し、ある生徒は標高3000m超のアルプス登山に挑んだという。また、ある生徒は論文を書くために、普段はなかなか読めない分厚い学術書を読んだという。書いた論文のテーマを尋ねると……。
「富の再分配を行う所得税と相続税の欠陥について」
「マクロファイナンスが地球規模の貧困に取り組む限界と問題点、その解決法の考察」
「飲酒運転の倫理面や事故の重大性からの処罰について」……。
かなり専門的で難解な法の不備や地球規模の問題解決について、高校生が深く考えていたのである。こうした論文のテーマを見ていると、彼らが完全に統治する側の人間として、世界を眺め、物事を考えていることがわかるだろう。
同校に伝わる有名な言葉に「イートン校の諸君、君達は命令するために生まれてきた」というものがある。イートン校の教師が生徒を対等に扱って意見を求めたり、為政者の目線で考えさせたりするのも、まさにリーダーとしての責任や自覚を促すため。どの授業でも、「カール大帝の立場で考える」というのがスタンダードなのだ。
しかし、だからといって「尊大な態度をするわけではない」と羽田さんや易さんは言う。実際、編集部からの突然の取材依頼に対しても、きわめて気さくで、フレンドリー。メールで質問を送れば、いつも即レスで「何かあればいつでも言ってください」という言葉が添えられている。
彼らは、エリートであることを自認しているからこそ、「社会に貢献しなければいけないと行動していること」が伝わってきた。この社会に貢献しなくてはいけないという考え方は、「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)」と言われる。これはイートン校に通う生徒はもちろん、欧米のエリートに深く浸透する道徳的規範だ。