胸より肋骨のほうが前に出ていることの危険性

【かじやま】姿勢といえば、リハビリに通っていたときに、胸を開いて体幹を意識しお尻にギュッと力を入れて立つことを教えてもらいました。そうすると、まっすぐな姿勢になりますね。

【田中】おしりの筋肉である大臀筋を意識することは正しい立ち方のポイントです。大臀筋は立つときに姿勢を支えるだけでなく、歩くときにも非常に重要な役割を果たします。加齢や歩行不足などでこの大臀筋が衰えると、骨盤が前傾するなど姿勢が崩れてくる。姿勢が崩れると、横から見たとき、胸より肋骨のほうがせり出してしまうこともある。特に若い人にはそういう姿勢の人が増えています。

【かじやま】女性でも、胸より肋骨のほうが前に出ているのですか。なぜ、そんな姿勢になってしまうのでしょう。

【田中】歩行不良や運動不足で筋力が落ち、身体のバランスが崩れるからです。骨盤が過度に前傾すると、背中が反って肋骨が開き、前に飛び出してしまう。逆に、骨盤が後傾して、猫背になる人も多いですね。

【かじやま】姿勢が崩れると、腰痛や膝痛、肩こりにもつながりますね。

【田中】そのとおりです。ロコモの危険性が高まるのはもちろん、お腹がぽっこり出るなど、体形も崩れます。代謝が悪くなって生活習慣病のリスクが高まるほか、冷え症になったり、疲れやすくなったりと、身体にさまざまな悪影響が出るのです。

大臀筋、大内転筋、ヒラメ筋を鍛える

【かじやま】先ほど、遅筋と速筋の話が出ましたが、歩くときにはどんな筋肉が使われているのでしょう。100歳まで歩き続けるためには、どの筋肉を鍛えるべきなのか教えてください。

かじやますみこ『人生100年、自分の足で歩く 寝たきりにならない方法教えます』(プレジデント社)

【田中】歩くという動作は「支持」と「推進」で成り立っています。片方の脚に重心を載せて身体を支え、もう一方の脚で後ろから前へと重心を送り出して前に進める。さらに細かく言うと、後ろの脚の親指(母趾)の腹のあたりで地面を押して、重心を前方に送り出し(推進)、反対の脚で身体を支える(支持)。すると、後ろの脚が振り子のように前に振り出され、かかとから着地する。このとき膝は伸びており、脚は身体よりも前に出ない。この動作を繰り返すことが、わたしの考える「正しい歩行」です。

歩行とは「重心を前に運ぶこと」であることを考えると、推進するという側面は非常に重要ですが、一方の脚が推進している間、支点としてしっかりと身体を支えるという役割も大切。その「推進」と「支持」の両方で、大臀筋が働いているのです。

くわしく言えば、「支持」では、大臀筋と内ももの筋肉である大内転筋が、「推進」では、大臀筋の上部線維とふくらはぎの奥にあるヒラメ筋が、主動作筋(推進力となる筋肉)として使われます。歩くために重要なのは、大臀筋、大内転筋、ヒラメ筋の三つの筋肉ですから、これらの筋肉を重点的にトレーニングしたほうがいい。1日5分程度でかまわないので、毎日続けることが肝心です。

田中尚喜(たなか・なおき)
理学療法士(運動器専門理学療法士)
1969年、青森県生まれ。1987年、岩手リハビリテーション学院卒業後、89年、東京厚生年金病院(現・JCHO東京新宿メディカルセンター)リハビリテーション室勤務。94年、ローマ世界水泳選手権日本選手団チームトレーナーとして帯同。98年、法政大学第二経済学部卒業。2005年、技師長、14年よりJCHO東京新宿メディカルセンターリハビリテーション室リハビリテーション士長。『百歳まで歩く 正しく歩けば寿命は延びる!』は20万部のロングセラーに。その他『腰痛・下肢痛のための靴選びガイド~からだにあった正しい靴を履いていますか?』『図解 百歳まで歩く』など。

 


かじやますみこ(梶山寿子)

ノンフィクション作家、放送作家

神戸大学文学部卒業。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。経営者、アーティストなどの評伝のほか、ソーシャルビジネス、女性の生き方・働き方、教育など幅広いテーマに取り組む。主著に、自らのリハビリ体験をもとにした『長く働けるからだをつくる ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」の基本』のほか、『トップ・プロデューサーの仕事術』『鈴木敏夫のジブリマジック』『紀州のエジソンの女房』『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』などがある。