健康維持には適度な運動が必要といわれている。なかでもウォーキングは誰でも自分のペースで始められる手軽な運動として人気が高い。しかし、正しい歩き方に対する知識が不足していると、けがや運動器の障害を招くことになりかねない。正しい歩き方のコツとそのために必要な筋肉について、ノンフィクション作家のかじやますみこ氏が、理学療法士の田中尚喜氏に聞いた――。

※本稿は、かじやますみこ『人生100年、自分の足で歩く 寝たきりにならない方法教えます』(プレジデント社)の第2章「正しく歩けば寝たきりは防げる」の一部を再編集したものです。

なぜ3歳ぐらいの子どもは「小股」で歩くのか

【かじやますみこ(ノンフィクション作家)】普段から、自分の歩き方について深く考えている人はあまりいないのではないでしょうか。そもそも「正しい歩き方」の何たるかを知らない人が大半だと思うのですが、わたしたちは「正しい歩き方」をしているでしょうか。

田中尚喜氏(理学療法士)

【田中尚喜(理学療法士)】日本人はもちろん、世界中のほとんどの人は、きちんと歩けていないと思いますよ。日本人の9割は、間違った歩行をしています。

【かじやま】えっ、世界中の人がダメなんですか。

【田中】はい。ヒマラヤ山脈やペルーのマチュピチュなど山岳地帯に住んでいる人たちを除けば、それ以外の人の歩き方は基本的におかしい。

【かじやま】具体的に、どこがおかしいのでしょう。

【田中】まず大股で歩いている。そこが根本的におかしい。歩幅を広くすると、足が地面に接地しているときに膝を伸ばし切ることができません。そのため膝が曲がってしまうのです。小股で歩くのが正しい歩き方だし、3歳くらいの子どもは、誰に教わるでもなく、そうやって歩いています。おそらく本能のままに歩くと小股になるのでしょう。

【かじやま】なぜでしょう。運動会の行進などで大股歩きを教わるからでしょうか。

【田中】教育も無関係とは言えないかもしれませんが、それ以上に影響しているのが、歩かなくてもすむ便利な生活環境です。「食事」と「睡眠」と「歩行」は、人間にとって必須の活動です。取りすぎはいけないけれど足りないのも問題がある。必須の活動ですから、本来、歩くことはエネルギーをそれほど消費せずに行うことができるはずです。日常生活で歩く機会が減ったために、現代人は歩くために使う筋肉が弱くなってしまった。歩行能力が衰えた結果、しっかりと歩くことができないし、歩くとすぐに疲れてしまうのです。

【かじやま】筋力が衰えているから、歩くとすぐに疲れる。疲れるからさらに歩かなくなって、ますます筋力が落ちる。悪循環ですね。

【田中】鴨長明の『方丈記』にも、「つねに歩(あり)き、つねに働くは、養生なるべし」とある。いつでも、どこでもできる活動が「歩行」であり、それが健康、長寿につながるのです。近年は、「歩かない」という傾向にますます拍車がかかっている気がします。人間の必須の活動として「食事」「睡眠」「歩行」の3つをあげましたが、「食事」「睡眠」とくれば「運動」だと思った人もいるかもしれません。でも、「運動」ではなく「歩行」だというところに注意してください。「運動」は、必須の活動である「歩行」の先にあるもの。ベースとなる「正しい歩行」もおぼつかないのに、それを飛び越して「運動」をするのは問題があるのです。