「プロ野球球団より慶應のほうがうまく使いこなす」

この測定機器は、プロ野球はもちろん、社会人や大学などのアマチュアでも使われだしている。だが野球のデータ解析会社、ネクストベースの中尾信一代表は「データを十分に使いこなしているチームは多くない」と話す。

目標は「時速150km+something」のボールを投げること(写真=清水岳志)

「データを活用して選手の育成、編成、戦術に取り入れるのはスポーツ界では当然の流れになっています。日本のプロ野球球団のほとんどは、多額の費用が必要な『トラックマン』と呼ばれる上位機器の導入を進めていますが、データを十分に使いこなせているとは限りません。大事なことは、データをどう解釈して、どう使うか。もしかすると、慶應はこういうデータや数値を日本で最も使いこなしているチームかもしれません」

デジタルツールによる計測は他の球技にもさらに普及する可能性が高い。そうなればアスリートの「スポーツへの取り組み方」にも変化が生じるだろう。

たとえば悪質タックルを起こした日大アメフト部などは、「上意下達」の古い指導体制で知られている。上からの指示には絶対服従といった根拠不明な指導法を続けてきたが、それは明らかに時代遅れだ。これからは、データやITを駆使した数字による指導法を取り入れなければ、強豪ではいられないだろう。

慶大野球部トップの大久保秀昭監督は、“部下”である林氏が導入したデータ計測に関しても口をはさむことはない。

「選手の技量を高める可能性があるならトライしてみろと言ってくれていますし、ちゃんと任せてくれる。理想の上司だと思いますね」(林氏)

根性主義、上位下達の体質……「非科学的」な体育会は滅びる

前出の菊池投手も慶大野球部という組織に「風通しのよさ」を感じている。

「監督はデータについては細かいことは触れません。どんな練習をしろということも強制もしません。選手を大人として扱ってくれるし、それに応えなければと責任も出てきます。あとはゲームで結果を出して、そこで判断されるだけです」

大久保監督はアマチュア時代に日本代表として五輪にも出場しプロ経験もある。そして都市対抗野球を制覇など野球を知り尽くした名将だ。その知見と感性で現場の空気感、雰囲気を現場で読みながら選手の起用や戦術を組み立て、指揮を執る。

もちろん助監督、スタッフの働きをきちんと認めて、データや導いた理論は尊重して受け入れる。健全で柔軟な運営体制と上司の度量。学生スポーツの理想が見えてくる。

かつてのスポーツ界は努力と根性、経験と勘ばかりが幅を利かせていた。そこにテクノロジーの進化によって「新しい指標」が持ち込まれたことで、その環境が大きく変わりつつある。林氏はこう話す。

「もちろん、スポーツをする上で気迫の重要性も大事にしていきたい。ブルペンは一人で投げるのは寂しい。数人で投げて場が熱くなったほうが、チームに連帯感が生まれます。それでこそ『練習は不可能を可能にす』という元慶大塾長・小泉信三の言葉も実践できると思います。科学的なデータや数値を上手く活用して、勝利の可能性を高めていきたい」

アナログな世界にデジタルをどう取り入れるか。これは野球に限らず、これからの人材育成での重要なポイントになるはずだ。

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