次に放射線診断の専門医の待遇改善の必要性も指摘する
「日本医学放射線学会などは人材育成を急ぐ必要がある。その際、気になるのは診断専門医が患者の治療にあたる医師に比べ、一段低く見られがちなことだ。専門職として重視される米国などと大きく異なる。医療界全体で待遇の改善を検討すべきだろう」
最後に日経社説は人工知能の利用を主張する。
「がんなどの診断はこれから大きく変わる。CT画像をゲノム(全遺伝情報)と組み合わせ、人工知能(AI)も使って精度を高める試みなどが本格化する」
「診断を人手だけに頼るのは限界がある。関係学会が進めるAIなどによる効率化を急ぐべきだ。見落とし問題への取り組みを、将来の新しい医療を切り開く契機としたい」
たとえばハイテク航空機は操縦のコンピューター化を押し進めることで、パイロットの犯すミスを可能な限り減らし、航空事故を防いできた。同様に超高度なAIを駆使できれば、医療事故も減るはずである。
なぜ「検査の質」が低下しているのか
産経新聞は8月20日付第2社説で扱っている。
日経社説より1週間ほど早い。だからだろうか。取材不足で記事自体もこなれていない印象だ。とはいえ、他社に先駆けて「がん見落とし」の問題を社説のテーマに取り上げた先見性は評価できる。
産経社説の見出しは「質の管理に目を向けよう」で、冒頭部分からこう主張している。
「検診の質が不十分であれば、がんを見つけて治療につなげることは期待できない」
「質を満たさない検診を放置してはならない。国は広く実態を把握して対応してもらいたい」
その通りなのだが、なぜ質の低下を招くのか。この点の検証がこの後を読み進めても弱い。
「女性は同じ医療機関で何度もがん検診を受けていた」
産経社説は「市区町村は、基準を満たす医療機関を適切に選んで、住民検診を委託しなければならない」と指摘した後、東京都杉並区の民間病院で起きた医療ミスを挙げる。
「東京都杉並区で、肺がん検診を受けた女性が、がんを見落とされ、早期の治療機会を失う事例があった。女性は同じ医療機関で何度もがん検診を受けていた」
「ここでの検診は、厚生労働省と国立がん研究センターなどが求める『質の指標』を満たしていなかった。胸部エックス線写真の読影は、2人の医師が行い、うち1人は肺がん診療か放射線科の専門医であることが求められている。しかし、専門医抜きで行われることがあった」
専門医不在でエックス線画像の読影を実施するというのだから、まったくひどい話である。
さらに産経社説は「がん検診の指標は、長らく『受診率の向上』だった。だが、検診の質を問う『精度管理』の必要性が、昨年更新された国の『がん対策推進基本計画』に盛り込まれている」とも書く。
だが、どうして検査の質が担保されないのか。これについての突っ込みが足りない。この突っ込みがないと、対策について具体的に述べることは不可能だろう。前述した日経社説と読み比べると、医療社説としての力の差は歴然としている。