夫婦ともに医療事故に倒れるという悲劇

ところで慈恵医大病院のがん見落しで死亡した男性のケースでは、繰り返すように男性の妻(死亡時51歳)も2003年8月4日に医療事故に遭遇している。

この女性が医療事故に遭ったのは、東京医科大学(東京・西新宿)だった。

東京医大は女性に対し、直腸がんの手術の後、術後ケアのために栄養剤や抗生物質を投与する中心静脈カテーテルと呼ばれる点滴用カテーテル(細管)を首の静脈から挿入した。

ところが、女性が意識不明の重体に陥って脳死状態になってしまった。カテーテルが静脈を破り、本来入るはずの心臓近くの上大静脈ではなく、胸腔内に入ってしまった。溜った点滴液が肺を圧迫して脳死状態に陥り、1年8カ月後の2005年4月、女性は死亡した。

この主婦の医療事故については、8月7日付の記事「15年前と変わらない東京医大の隠蔽体質」でも触れた。

病気を治療するために訪れた病院で命を落とす。しかも夫婦がともに医療事故で命を失ってしまうとは、あまりに理不尽だ。

医療事故を少しでも減らすためには、原因の徹底追及と具体的な再発防止策が欠かせない。一連のがん見落としを受けて、厚労省はようやく画像診断のシステム変更に乗り出した。その対応はあまりに遅すぎる。割を食うのはいつも患者のほうだ。

(写真=時事通信フォト)
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