流通する言葉の法則

次に大切なのは「シンプル」であるということです。

筆者が過去につくった企画も「あたりまえポエム」「ツッコミかるた」「エゴサーチ採用」など、既存の言葉を単純に組み合わせたものが多いのですが、これの良いところは、名前そのものが内容・ルールの説明になっている点です。そのため、言葉が独り歩きしたとしても受け手は何をすればいいのかを明確に理解できるのです。

▲「あたりまえポエム」は、あたりまえのことを詩的でロマンチックなフレーズで表現する作品。多くのユーザーがオリジナル作品を投稿しています。

「54字の物語」も、「54字」で「物語」を書くということを表した、非常にシンプルでストレートなネーミングになっています。

“盛れる”テキストコミュニケーション

3つめは「クオリティの担保」です。玉石混交になりがちなユーザージェネレーテッドコンテンツにおいて一番難しいのがこの部分です。

「クオリティの担保」とは、誰がやってもある程度良いものがつくれるという仕組みのことです。これは「盛れる」と言い換えることもできます。

例えば、顔をかわいいスタンプでデコれる自撮りカメラアプリ「SNOW」。このアプリのすごいところは「顔に犬やネズミのパーツをつければ誰でもかわいくなれる」という発見だと思っています。誰でも及第点を取れる仕組みが、ユーザー参加型の企画においては非常に重要なポイントなのです。

最近中高生に人気の動画投稿アプリ「Tik Tok」もここの設計がよくできています。これは、15秒の音楽にあわせてダンス動画を投稿するアプリなのですが、「リズムにあわせてウインクをする」「メロディーにのせて手にあごを乗せる」「音に合わせて手をかざす」などシンプルかつかわいいお題がたくさん用意されているのです。みんなが共通のルールで参加するので、動画としての質が保証された上で、それぞれがさらに創意工夫して楽しめます。

54字の物語でも、「普通のテキストで投稿しても面白くないストーリーでも、文字数をぴったり収めて画像にしたらいい感じに見える」という世界を目指しています。

これらのポイントを生かし、今回の本を企画・制作しました。

「ルールをつくる」というつくり方

今回「54字の文学賞」を通して、たくさんのすてきな作品に出会うことができました。中には筆者が書いたストーリーよりも話題になった作品もたくさんありました。自分より面白い人、すてきな文章が書ける人は山ほどいるのです。

必ずしも自分だけが書かなくても面白いものが生まれるのであれば、面白いものが生まれる「ルールをつくる」というつくり方もあるんじゃないか。また、アイデアを自分の中で温存し続けるのではなく、考え中のアイデアでも、自分以外の才能ある人たちにどんどん開放していくというやり方が今の時代に合っているんじゃないかと、最近は考えています。

そういった思いから、筆者は「作家」ではなく「企画作家」を名乗っています。そして、自分が立ち上げた会社の名前も「株式会社 考え中」という名前にしました。

▲著者・氏田雄介の会社

今後は「54字の物語」を教育の分野に取り入れたり、映像化したり、海外展開したりとたくさんの展望があります。また、ここまで書いてきたような知見を生かした新たなコンテンツも考え中です。今後もさまざまな可能性を模索し続けていきます。

氏田 雄介(うじた・ゆうすけ)
株式会社考え中 代表/企画作家。1989年、愛知県生まれ。早稲田大学を卒業後、面白法人カヤックに入社。インターネット、SNSを主戦場にした広告やコンテンツの企画・制作を手がける。2018年、株式会社考え中を設立し、企画作家として独立。著書は『あたりまえポエム 君の前で息を止めると呼吸ができなくなってしまうよ』(講談社)、『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』(PHP研究所)。